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ステンレスについて解説・入門篇

はじめに

 この文章は、10年以上前に書いたものです。時々、加筆訂正をしていますが、古い内容のため現況とは違いが出ているところも多くなっています。

 筆者は、ステンレス加工業者ではありますが、ステンレスの研究者ではありません。この文章は、ステンレス製品を使う一般の方や弊社の若手の勉強用にと(資料や筆者の経験をもとに)思いつくまま書いたものです。そのため、認識不足による間違いや、舌足らずの部分があると思います。(無断での引用や、引き写しはご勘弁を。)
 文体もフォントもいい加減です。予めご了承のほどお願い申し上げます。

1.材質(鋼種)

 ステンレスは、鉄をベースに、クロム・ニッケルなどを混ぜた合金です。クロムなどにより、表面に強い酸化皮膜(不動態皮膜)ができることで、腐食に強い金属となります。ステンレス(stainless steel)は、錆びない金属ではありません。「錆びにくい」金属です。不動態皮膜は、合金成分のクロムにより生成されます。この皮膜は傷などで破壊されても直ぐ修復する性質のものですが、皮膜を劣化破壊させる環境では腐食が発生します。鉄の赤錆の様にはなりませんが、条件・環境により様々な腐食を起こします。
 腐食に対する強さを「耐食性」といいます。(断食に耐えることではありません)。ステンレスを使う最も重要な目的は、この耐食性(耐酸・耐熱)にあります。

 鉄や金銀銅アルミニュームなどは金属元素ですが、「ステンレス」という金属元素はありません。ステンレスは、鉄にクロムやニッケルなどを混ぜた、鉄成分が6割~8割を占める合金で、添加金属の種類や割合によって、様々なステンレスの鋼種が造られています。「ステンレス」は、それら鋼種の総称と言ったところです。鉄がベースの合金ですので、お間違えなく。
 鉄にクロムを混ぜていくと、クロムの割合が11~12%位のところで、急に耐食性(不動態皮膜の生成)が高まります。そんなことで、鉄に約11%以上のCrを混ぜた合金のことを「ステンレス」と定めたとのことです。

 ステンレスの材質記号は、SUS(さす)です。SUSの後に3桁の番号などをつけて、ステンレスの鋼種を区別します。JIS規格だけでも、数十種の鋼種がありますが、一般的に使われ、市中で流通して入手出来るものは10~20種類位だと思います。(当社でも常に使っている鋼種は4~5種類です。)他の多くは、用途に応じて(大口需要家向けに)造られている専用鋼種で、特殊なものと考えてよいでしょう。また、JIS規格以外でメーカー独自の鋼種も数多く造られています。
 SUSは、Steel Used Stainless (錆の少ない・錆びにくい用途の鋼材)の頭文字。
 ステンレス鋼のことを「ステン」と略してよく言いますが、英語の意味からいうと、サビ・汚れということになってしまいます。でも通称として定着しているので、それはそれでよいのでは。
 なお同じステンレスでも「SUH」の記号は、JISの耐熱鋼の規格表記。

 近年のグローバル化をうけて、外国からの図面をいただくことも多くなりました。そういった図面に「Inox」と書かれていたので調べてみたら、ヨーロッパ圏では、ステンレスのことを「Inox」(いのっくす)と言うとのこと。Inoxは、フランス語の合金という意味の単語の初めの部分らしいのですが、それ以上確認は取ってません。日本で大まかに「ステンレス」と言うのと同じ語感なのでしょうか。(ご教示を)

 ステンレスの鋼種は、一般の人が判別できるのは大まかに2種類で、磁石につくものと、つかないもの(磁性の有無)になります。

 磁性のある鋼種は、主要添加元素がクロム(Cr)のみのもの。記号では、SUS430のように、4百番台の数字がつきます。冶金的には、フェライト系・マルテンサイト系の2種類に分かれます。クロム系ステンレスという場合もあります。フェライト系は、次に記すオーステナイト系のステンレスに比べて一般的に耐食性に劣りますが、SUS材の中では安価なため、用途上問題なければコスト面で採用されることが多いようです。もちろん、磁性の必要な用途の製品には、フェライト系の材料を使うことになります。

 磁性のない鋼種は、主要添加元素がクロム(Cr)とニッケル(Ni)です。記号では、3百番台の数字がつきます。オーステナイト系ステンレスと呼びます。ニッケルが入ることで、耐食・耐熱性が向上します。価格は、上記フェライト系ステンレスより(当たり前ですが)高価です。ニッケル系ステンレスと呼ぶこともあります。厳しい加工や溶接で素材が変質した部分は、磁性を少し帯びたり腐食しやすくなります。

 フェライト・マルテンサイト・オーステナイトというのは、金属組織(結合)の種類のこと。フェライトとオーステナイトは、本などの説明によると冶金的には金属原子同士の結びつき方(格子)が違うとのことですが、その違いがなぜ磁性の有る無しとして分かれるのかは筆者は調べたことがありません。専門家ではないのでその辺は避けて通らせてもらいます。(笑)

 ニッケル系ステンレスの板(2B表面・後述)は、ニッケル成分のため白銀色をしています。クロム系のそれは、クロムを反映して黒っぽい光沢色(クロムメッキに似た色)をしています。並べて比べれば一般の方でもその違いが判ります。しかし、加工製品になると表面処理・研磨を施されたり、汚れなどが付いたりするので色合いで判別するのは困難になります。

 その他、上記の2鋼種をベースとして、数種類の元素を少量添加して様々な特徴をもったステンレス(鋼種)がつくられています。目的に応じて、モリブデン(Mo)・硫黄・マンガン・銅・チタン(Ti)・ニオブなどが添加されています。添加金属成分が多くなるほど価格も高くなります。特に、MoやTiなどのレアメタルは非常に高価なため、それらの添加鋼種は非常に高価な材料になります。

 

 また、主要鋼種において、炭素(カーボン・C)の含有量を、微量に抑えたローカーボン材があります。炭素は、素材の強度(硬さ)を左右するとともに、腐食や、割れなどを起こす原因になる元素です。炭素量を低減(0.03%以下)して、耐食性を高めたものが、ローカーボン材です。記号の最後に、SUS304Lのように、L(える)をつけて表します。少し柔らかめの材料になります。(価格も高くなる)

 ステンレスの比重(質量)は、7.7~8です。(鋼種によって異なります。)SUS304が、比重7.93ですので、鉄の重さ(比重7.87)とほぼ同じです。板厚1mmで1mx1mの板の重さが、7.93kgになります。比重8と覚えておけば、材料の重量を知りたいとき、体積を計算して8倍すれば、おおよそ間違いのない重量がだせます。
 ちなみに、アルミ(アルミ合金)の比重は約2.7ですので、ステンレスのほぼ3分の1の重さになります。軽量化の重要な製品にはアルミ合金が使われることが多いのですが、鉄やステンレスに比べ強度設計や加工上の工夫、材料コストなどが課題となります。

 

 ステンレスは、鉄(軟鋼)に比べ硬く靭性(ねばり)があるため、切断や削り・曲げなどの加工に、機械のパワーや刃物の硬さなどがより必要になります。ステンレス製品が高価になる理由は、材料費が鉄に比べ高いこと以外に、この加工の難しさによる要因が大きくかかわっています。
 鉄に比べ強度があるため、鉄より薄い(細い)材料を使っても強度を得ることができる面があります。また、鉄に比べ「伸び」がよいため、板を曲げたり、プレスして成形加工(朔性加工)する場合、鉄だとヒビが入ったり割れてしまう場合でもステンレスだとうまくできるといったこともあります。

 

 以下、代表的なステンレスの鋼種を紹介します。

 

 SUS304(さす・さんまるよん):Cr18%、Ni8%を含む。この含有率(%)をもって、18-8ステンレスと表すことがある。耐食性・耐熱性良好で、最も一般的に使用されている。また、板、パイプ、アングル、丸棒など様々な形状の材料が造られていて、入手しやすい。塩素や酸の強い環境では腐食がおきる。溶接の熱影響を受けたところで、腐食割れをおこすことがある。耐熱温度は、500~800℃が目安。熱膨張率が大きいので、熱歪みを抑える加工方法の工夫が大切。通常、ステンレスというとこの鋼種を使用することが多く、当社でも鋼種の指定がない場合は、SUS304を使用している。オーステナイト系ステンレスの基本鋼種。比重7.93。SUS304Lもある。

 

 SUS316(さす・さんいちろく):SUS304を基に、Ni量を増やし、モリブデン(Mo)を2~3%添加した鋼種。Moの添加により、耐酸性、耐熱性が向上する。化学薬品・海水などを扱う環境などで、SUS304では耐久性・耐食性に劣る場合に使用する。比重は8.0。Moは、高価な元素なので、材料もその分高価になる。入手できる材料の形状は、SUS304に比べて多少制約がある。SUS316Lもある。外観では、SUS304とSUS316は見分けがつかないので、Moの有無を判別する薬品などが売られている。

 なお、SUS304、SUS316などのオーステナイト系鋼種は、焼入れ(熱処理による硬化)が出来ないので、焼入れの必要な用途には使用できません。焼入れ用途のステンレスは、マルテンサイト鋼種になります。(後述)

 

 SUS430(さす・よんさんまる):Cr18%、Niなし。磁石にくっつく(強磁性)。SUS304に比べ、耐食性に劣るが、安価なため、厨房(台所)用品・家庭雑貨などで多く利用されている。フェライト系ステンレスの代表。家庭などの水周りで使う程度の環境であれば、ほぼ問題はない。家庭にあるステンレス製品を、磁石につくかどうか試してみるとおもしろいかも知れない。熱膨張率が小さいことが利点。比重7.7。
 SUS304系に起きる応力腐食割れ対策として、ステンレス屋根(建材)や温水器(ボイラー部材)などは、SUS430に、Moを添加して錆びにくくした鋼種(SUS444)が多く採用されている。また同様にSUS430を基にさまざまな成分を添加してSUS304と同等な耐食性をもつという鋼種(SUS434・SUS436)などもあるが、それらは専用の鋼種のため一般販売材料としては市中に出回っていないと思う。

 

 SUS440C・SUS420J2(さす・よんよんまるシー・よんにいまるジェイツー):Cr13%の鋼種(マルテンサイト系)で、焼き入れ(熱処理)で硬くなるため、バネ用途や刃物(包丁)に利用される。ステンレスのスケール(定規)や包丁・ナイフ・ベアリングの球などは、このての材質のものが多い。カーボンの量が、焼き入れ硬化の程度を左右する。磁性あり(強)。
 ステンレスの定規やノギスを雨ざらしにすると、結構赤錆がくるのは、用途的にこういう材質(が必要)で作られているためでしょう。(硬度や耐磨耗性)。自動車のブレーキディスク(耐磨耗)は、420J2系の材質らしい。さて、ヒゲソリの刃の材質は?

 SUS410S系:鉄に比べ耐食・耐熱性があり、安価なステンレス鋼種のため、自動車の排気系部品(マフラーなど)に使われている。凍結防止剤や排気化学物質による腐食を防ぐため自動車のエキゾースト部材はステンレス化が進んでいる。SUS409Lなどもある。SUS410・409系統の鋼種は、言い方は悪いが「鉄みたいなステンレス」と言う人もいる。近年、排気系部品には、SUS410や409より耐食性のよいSUS436L系の使用も多くなっているらしい。

 

高耐食フェライト系ステンレスについて
この系統の鋼種が選ばれる要因
 ①オーステナイト鋼種で発生する腐食対策~フェライト系鋼種で防止(温水器・水周り用途のSUS444)
 ②低価格で耐食性・耐熱性を向上~表面処理鋼板(鉄)からSUS410・SUS430・SUS430LXへ、さらにSUS434・436Lなどへ(自動車排気系部品)
オーステナイト鋼種は、高価なNiを含むため高価→Niを含まないフェライト系で→従来のSUS430などでは耐食耐熱や加工性に難がある→SUS430を改良→Cr成分を増やす・Moを添加する・その他TiやNbを添加する・超ローカーボン化する→高耐食フェライト系ステンレス
 (私見)高耐食フェライト系ステンレスは、一時のニッケル価格高騰によりニッケル系ステンレスが非常に高価となり、コスト的に優位なフェライト系鋼種を開発するべく生まれてきたらしい。現在その代表的な鋼種としては、排気系部品用途のSUS436(L)などを指すことが多いようです。(SUS444は、かなり前から使われていますが、高価なのだと思います。)
 材料販売の営業マンによると、「SUS304と同等の耐食性を持つ」とのことですが、私はデータシートなどの技術資料を見ていないので、すべての腐食環境でSUS304と同等なのかは確認していません。(当社では、まだ使ったことがありません)
 この鋼種に適した圧延設備を持つ高炉メーカーが、主に製造しているとのことです。詳しくはメーカーや販売商社へ問い合わせしてみてください。

 SUS310S・SUS309S:Cr、Niを増やした高級耐熱鋼。800~1000℃くらい(?)の熱に耐えるので、炉材や熱処理器具などの過酷な条件で使われている。なお、耐熱性は、SUS304<SUS316<SUS309S<SUS310S の順。価格も順に高くなる。一般的に使われているニッケル系ステンレスの中では、SUS310S(相当)が最も高価な部類になる。
 SUS310SがCr25%・Ni20%の合金で、それ以上の含有率のものは、ニッケル合金の範疇になっていく。ニッケル合金の代表的な商標名として、ハステロイ・インコネル・カーペンターがあるので、ご紹介まで。

 SUS303:快削鋼。SUS304に、燐(P)硫黄(S)などを添加すると、切り粉がきれいに出て削りやすい材質になる。旋盤加工などの切削部品(刃物でけずって造るもの)用途。ただし、耐食性が落ちるので、使用環境に注意が必要。クロム系の快削鋼はSUS416がある。丸棒材が主体で、板材は少ない。

 SUS301:板バネ用鋼種。SUS304よりC(カーボン・炭素)を多めにしてあるため、冷間圧延加工による加工硬化が大きく、板バネとして使われる。
 圧延メーカーが、多種の板厚で製造している。SUS304よりもバネ性が高い。板バネの記号は、CSP(cold spring plate)。

 SUSXM7(さすエックスエムセブン):ヘッダー・転造・深絞り用途。SUS304をベースに、銅(Cu)が3~4%混ぜてある。加工硬化が少ないため(柔らか)、冷間鍛造(ヘッダー加工)や変形率の大きなプレス加工などに用いられる。SUS304では、割れてしまうような加工をする場合に使う。ステンレスのネジ(ビス)などに使われることが多い。この鋼種だけはなぜかアルファベットで始まる記号がついている(開発時の記号らしい?)。

付け足しに、金属組織の異なる鋼種を二つ紹介
二相系ステンレス:フェライトとオーステナイトが交じり合った材質。磁石に付くが耐食性が高く、海水環境に強い。SUS329J1・SUS329J4Lなど。海水環境で使う船舶用部品、水門配管設備などでの利用が多いと思う。応力腐食割れ対策。


析出硬化系ステンレス:熱処理で硬化する鋼種。高温強度・耐食性良。SUS630・631など。

​*ステンレス鋼種・系統図(PDF)はこちら

 

 JISの鋼種記号とは別に、材料メーカー(新日鉄住金とか)は、それぞれ商品記号(商標名)をつけています。一般鋼種は、JIS記号とあまり変わりませんが、少し特殊な鋼種だと任意な鋼種名称になっています。同等鋼種でもメーカーにより鋼種名がぜんぜん違っている場合もあります。JISの範囲では同じでも、メーカーごとに少しずつ違い(特徴)を持った独自の鋼種として、それぞれ独自名称を付けていることも多いようです。
 ちなみに、新日鉄のステンレス鋼種記号はYUS(ユース)、JFEスチールはそのままJFE、日新製鋼だとNSS、日本冶金だとNAS(ナス)、日本金属工業だとNTK、などメーカー企業のブランド記号がついています。日本冶金の「ナス」ブランドは、キッチンなど水周り製品のブランドとして昔から宣伝しているので、結構馴染み深いのではないでしょうか。

 また、外国のステンレス規格(の記号)もJIS(日本)とは、少し違っていますので、DIN(ドイツ)とかAISI(アメリカ)とか書いてあったら、JISではどの鋼種に当たるか(近いか)確認することも必要です。なお、アメリカには、UNS,ASTEMなどの別の規格もあります。イギリスはBS、ブリヂストンではなく、ブリティッシュスタンダード。欧州はEN。国際規格はISO。

 なおJIS(ISO)の記号ではなく、「18-8 ステンレス」などと表示されている場合も多いのですが、これは、クロムとニッケルの成分比率を数字で表しています。「じゅうはち・はち」と呼ぶ。「18-8」の場合は、18%クロム・8%ニッケルのステンレスですので、SUS304(相当)の材質ということになります。同様に「18Cr ステンレス」とあれば、SUS430(相当)ということになります。
 SUS316系統の材料はモリブデン含有のため、一般消費者向けにモリブデンステンレスとか、高耐食ステンレスなどと書かれている場合もあります。


 さまざまな鋼種を紹介しましたが、ステンレス業界でない一般の方は、SUS430(磁石につく・低価格)とSUS304(磁石につかない・通常品)の2つを覚えておけば十分と思います。
 先述したように、フェライト系鋼種でも高耐食材料があるため、磁石につくから「耐食性に劣る・グレードが低い」とは一概に云えません。

 

 ステンレスは、耐熱鋼(熱処理など)用途で使われる場合も多くあります。よく、この鋼種は何度(温度)まで耐えれるか?といった質問を受けるのですが、なかなか返事に困ります。用途によって、熱(負荷)による変形や酸化、変質消耗などの「耐えている」レベルは、ユーザーの用途や使用条件によって違うわけであり、耐久性も10時間もてばいいのか、3年間はもたないとダメなのかといったことになります。もちろん耐熱データを基に、ユーザーの使用条件をクリアできそうな鋼種を選ぶのですが、最終的には、コストとの絡みにもなるため、鋼種違いで比較しながら実際に使っていただいた上で、ユーザーに判断してもらうことになります。
 また、同じ鋼種でも厚さや太さ・構造(設計)によって製品寿命は変わってくるので、総合的に考える必要があります。

ステンレスは、その屑やスクラップをほぼ100%リサイクルできる材料です。高価な金属成分をもつ合金ですので埋め立て廃棄などしてはいけません。極力分別しリサイクルできる製品設計をしましょう。(勿論、他の金属も同様です。)
 ニッケル協会の雑誌によると、2007年現在、世界のステンレス材料のリサイクルスクラップ使用割合は60%に達しているとのことです。リサイクル原料を使えば、1次原料からステンレスを作るために必要なエネルギーが1/3以下になり、その分二酸化炭素の排出量も低減できるとのこと。今後さらにステンレスのリサイクル原料率は高まっていくだろうと記しています。(『Nickel』Vol.22 2007年9月号)

 

 熱伝導性と通電性のことを少しふれておきます。
 ステンレスは鉄やアルミなどに比べて熱伝導率がとても低い(悪い)材料です。熱伝導が低いということは、熱をかけた部分に熱がこもって、全体に伝わりにくいということです。焼肉鉄板にステンレスを使用しないのは、バーナーの火や炭火の直に当たるところだけ熱くなり、鉄板全体が均一な熱さにならず、肉がうまく焼けないのです。(大事なお肉がベトベトに張り付くぞ!バーベキューをするなら、油を落とせる網焼きが筆者は好きです。) 超高級焼肉鉄板を作るならチタンでしょうか(笑)。最近は、ステンレス製の鍋やフライパンなども多くなってきたようですが、それらは熱伝導を良くするためにアルミや鉄が二枚重ねになっているはずです(そのため重い)。鍋釜フライパンは、やはり鉄・アルミでしょうか。ラジェーターのフィンや放熱板は、ほとんどアルミ製ですよね。
 逆に、放熱性が低いということは、蓄熱性が良いということ。風呂桶や水筒(ポット)などの保温・断熱用途には向いています。
 熱伝導率は、鉄(SS400)に比べ、SUS304が約1/5、SUS430が約1/3となっています。

 熱膨張率は、鉄とSUS430はほぼ同じで、SUS304は鉄の約1.5倍。オーステナイトステンレスは、熱による歪みが大きいため注意が必要になります。台所のステンレス製シンク(流し台)にお湯をかけると、「パン!」とはじけるような音が出ることがあります。これは熱でシンク材が局部的に伸びて歪んだり、冷えることによって急に元に戻ることによって起きます。理屈は分かっていても、シンクが不意に「パン!」と鳴るとビックリしますね。

 ステンレスの通電性も非常に低い(悪い)。私の子どものころの電気コンロやストーブはバネ状のニクロム線が裸のまま使われておりました。ニクロムは、ニッケル・クロム合金線ですのでステンレスの規格ではありませんが、ステンレスの兄弟のようなもの。電気を通すと電気抵抗が高いので電気エネルギーが熱に変わります。ステンレスを通電用途に使うのはできるだけ避けましょう。大事な電気代が熱に変わってしまいます。

 

 なお、抵抗溶接(通常スポット溶接という)は、電気抵抗の熱で金属を溶着させる方法ですので、電気抵抗が高く、熱が局部にこもりやすいステンレスは鉄に比べ条件がよい。通電性のよいアルミなどを抵抗溶接するには大電流が必要になります。
 電気抵抗は、軟鋼(SS400)に比べ、SUS304は約4~5倍、SUS430で約3~4倍。

 閑話休題。錆びにくいということは確かに有用なことだと思いますが、金属が錆びていくことも大切な面があるのではないかと。生分解性プラスチックが出来てきたように、ある程度の期間の後、自然(土)に還っていくことが必要な用途の金属製品も多いのではとも思います。みなさんは、どう思われますか?

 

 磁性について、少し追記。SUS304などのオーステナイト(ニッケル系)鋼種は、磁石が付かないと述べましたが、一番よく使われているSUS304では、溶接部周辺や厳しい曲げ加工やプレス加工をした部分などは弱い磁性を持ちます。(SUS430系や鉄のように、磁石がバチバチくっつくことはありません。)
 これは、強い加工によって、金属組織が変化(クロム炭化物の析出など)するためです。そういう部分は、オーステナイト組織の中に、フェライト組織やマルテンサイト組織という磁性の強い金属組織が混じったようになり、弱い磁性が出るようになります。溶接の熱影響部や加工硬化した部分などは、金属組織が均一でなくなった(劣化した)部分にあたるので、腐食が起き易いところにもなります。
 冷間品のSUS304の材料(細いフラットバーや引抜き丸棒など)も、材料の段階から弱い磁性を持ったものが多くあります。SUS316やSUS310SなどのNi量の多い鋼種は、カタログ的には「完全非磁性」となっており、SUS304に比べれば磁性化する割合はかなり小さくなるようです。
 変化した金属組織を、元のオーステナイトに戻すには、SUS304系の場合、固溶化熱処理という1000℃~1100℃という高温の熱処理をしなければならず、製品の状態でそれを行うのは、現実的には困難になります。 
 ユーザー様から、「磁石につくが、大丈夫か?」「材料をまちがえてないか?」といったお問合せも時々ありますが、加工による金属組織の劣化は避けることが出来ませんので、このような説明をしてご理解いただくよりほかありません。
 「SUS304なのに磁石がつく!」については、以上のような理由でご理解をお願い申し上げます。

 近年、ユーザーより、ヨーロッパのRoHS指令(WEEE指令・ELV指令)やSVHC物質の使用禁止、または中国の類似法令に対応するため、ステンレスの成分に同指令の規制する物質が入ってないことを証明する書類を提出せよとの連絡がしばしば来るようになりました。
(RoHS指令、SVHC物質については各自お調べください)
 簡単に言うと、製品に含まれる、、鉛・水銀・6価クロム・カドミウムなど(有毒性物質)が、規定値以下でなければいけないという法令です。

 ステンレス鋼製造メーカーからの書類(規制物質の不使用証明書&SDS)によれば、ステンレス材料には該当物質は含まれていません。安心してお使いいただけます。(2021年現在)

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2.表面仕上・研磨仕上

 一般の方は、ステンレスというとピカピカ光沢の金属のイメージが強いようです。これはキッチン用品や装飾金物などの普段目に付きやすいものが、研磨加工などで仕上られているからです。しかし、ステンレス材料の表面は、その製造方法(工程)や形状により、いろいろなものがあります。材料の製造方法と表面状態は、密接に係わっているので、同じ材料表面でも違う言い方をすることが多分にあります。以下、簡潔に説明しますが、筆者も理解が不充分かもしれませんので、間違っていたらご勘弁を。板材を中心に説明します。

 

 NO,1(ナンバーワン)・HOT・酸洗 : 板材で、つや消しの、白っぽい表面。梨地に近い感じ。(表面が粗い。)厚さ3mm以上の板材。熱をかけてロールで延ばす(熱間圧延)工程の後、酸で表面につく黒い皮膜や汚れを取り除いたもの。製造工程順で、1番初めのものなので、NO,1と呼ぶ。(単純です。) 熱間製造材料なので、HOT(ほっと)材ということも多い。酸で洗っているので、酸洗(さんせん)材とも言う。 フラットバー、アングル、丸棒は、NO,1と言わず、通常、HOT材・酸洗と呼んでいる。ステンレスの場合、鉄のように黒皮(くろかわ)のままのものは、ほとんどないので、HOT材といえば酸洗表面になる。溶接焼けで黒くなったところをきれいにするため、酸洗いをすることが多いが、その場合も当然同じようなつや消し状態になる。ちなみに、ステンレス鍋などの汚れを酢やレモン汁できれいにするのは、家庭版の酸洗いということです。(サンポール!)
 アングルなどの条鋼(形鋼)などで「熱酸品」と書かれていれば、熱間圧延・酸洗表面の意。
 熱間製造の材料は、冷間材に比べて板厚などの寸法精度がラフなため、精密な加工品を作るには適さない場合があります。(単価は多少安いけれど)

 

 2B(ツービー) : やや光沢(つや)のある表面で、つるっとしている。厚さ6mm以下の板材。SUS304は、白銀(ニッケル)色、SUS430は、クロム色。正式には、NO,2B(ナンバー・ツー・ビー)だが、略して2Bと表すのが普通。HOT材を冷間圧延し、表面を仕上げるロール(スキンパスロール)を通してつくる。№1に続き、2番目の工程でできるのでNO,2で、仕上がブライト(B)の意味。2B材の表面のつやは、研磨ではなく、スキンパスロールによって表面の金属組織が押しつぶされたように平滑になっていることによる。耐食面で安定していて、最も一般的に使われている冷間材の表面。材料を買うとき、特に指定しなければ2B仕上の板がくると思う。

 2Bの前の、2D(ツーデー・ツーダル)という仕上もあるが、これは、ダル(にぶい)仕上のもので、一般には出まわっていません。2D材は、加工硬化が少ないため伸びがよく、深シボリ(プレス)用途に使われることが多い。(表面の色艶は劣ります。)

 NO,1・HOT材に対して、COLD(冷延)材の基本になる表面が2Bです。ただし、コールドといっても、冷やして材料を製造するのではなく、熱をかけずに(常温で)圧延して造るという意味です。「SUS304 CP」とか書いてあると、「CP」はコールドプレート(冷間圧延板)の略ですので、通常は2B材になります。「HP」は、ホームページか、ヒューレッド・パッカードか?。(答)ホットプレートは、家庭で焼肉やホットケーキを焼く家電製品。
 図面などで、「PL t3」とか書いてある場合の、PLはプレート(板)のことですので、表面仕上げや材質の記号ではありません。図面で板なのか何なのか分かりづらい時に、PLと書いてあることがあります。

 なお、№1や2Bという表面記号は、前述の通り「板」(コイル)の製造工程から来ている名称のため、板以外の材料の場合、№1・№2Bという呼び方は通常しません。HOT(または酸洗)かCold(または研磨仕上記号)かで表しています。HOT材をもと(後)に、次工程の冷間加工で出来たものがCold品ですから、どんな形状の材料でも、HOT材よりCold材のほうが高価になるのが基本です。

 

  BA(ビーエー) : きれいな光沢のある表面で、後述の400番研磨と同等(以上)の感じ。ブライト・アニールを略してBA。日本語では、光輝焼鈍(こうきしょうどん)という。ブライトが光輝で、アニールが焼鈍(熱処理の一種)。冷間圧延によるつるつるな光沢肌を酸洗で失わないために、無酸素(不活性)ガスの中で熱処理をすることによって光沢を保持している。(加工硬化を戻すため焼鈍は必要だが、酸化スケールが付かないので酸洗工程が無い)。物理的な研磨加工をした板ではなく、薄板(たぶん1.5mm以下~極薄)しかつくられていない。石油ストーブの反射板に、SUS430系のBA材が使用されていると思う。鏡と同等な研磨仕上げをする場合の母材として使ったりする。2Bよりやや高価。

 フラットバーやアングルなどの場合は、板の仕上とは異なるので、研磨仕上げなどの指定がなければ、コールドとかホットとか言い表している。鉄の場合の、黒皮・酸洗(SPH)とミガキ(SPC)みたいなもの。HOT材より、COLD材の方が腰が強い。冷間加工工程を経るとともに、加工硬化していくためです。

 

 また、板厚が薄くなるほど、圧延工程が多くかかるわけですから、重量当りの価格は高くなっていきます。丸棒なども、細いものほど引き伸ばす工程が多くなるので、高価になっていきます。ただし、重量当りの価格ですので面積や長さ当りの価格に換算することが大事です。

 配管用パイプの表面は、冷延の板材を使って造られていても、基本的に酸洗表面です。パイプは、板を丸めながら溶接して造管するものが多いのですが、造管工程の最後に酸洗いをしているためです。手摺などで使われているピカピカ光ったステンレスのパイプは、研磨をして光沢を出しています。美観のための研磨をしているので、化粧管・化粧パイプということもあります。
 ちなみに、ホームセンターで売っているステンレス物干し竿の多くは、鉄に薄いステンレスを張り合わせてつくっています。そういう張り合わせの素材を、クラッド材といいます。物干し竿の品質表示シールなどに、クラッド管とか書いてあるはずです。オールステンレスの物干し竿は、1本980円みたいな値段では造れません。電車車両の手摺なども、クラッドパイプが多いと聞きます。クラッドの技術は非常に優れたものだと思います。

 

 これより以降は、研磨(2次)加工を、施した表面仕上です。ほとんどが、外観装飾用。

ステンレスを研磨する場合、装飾(外観)以外の目的には、サニタリー(食品衛生)や、クリーンルーム機材・真空機器など、非常に微細なばい菌や汚れまで管理しなければならない用途がありますが、それは「表面粗さ」で表記になるのかな。

 

HL(ヘアーライン)研磨: 長く続く縦すじの付いた仕上。髪の毛のような線という意味。200番~250番程度の研磨材(砥材)を使って研磨したもの。縦すじによって、独特のおちつきのある、つや消し的仕上りになる。手摺・柵・屋外建材金物(エクステリア)などによく使われているので、目にする機会は多い。人や物が接触する機会の多いところでは、擦り傷などがつきやすいので、そういったキズが目立ちにくい利点があり、補修研磨もし易い。板だけでなく、パイプ・フラットバー・アングル・丸棒など、多くの既製材料がある。公共施設の手摺をしげしげと観察してみよう。HL研磨の板には、通常養生テープ(キズ防止テープ)が貼ってあります。厚手の白色のテープが多いようです。
 なお、HLによく似た研磨仕上げの№4(ナンバーフォー)というのもあります。これは、研磨がHLより粗めで、縦筋が通っていない感じのもの。どちらかというと素材表面の傷や荒れたのを隠すような目的。厨房機器によく使われている。市中販売品は殆どないと思う。

 

#400(よんひゃくばん)研磨 : 光沢(ピカピカ)仕上の代表的なもの。2B素地を#400バフで研磨したもの。バフとは、回転させて磨く研磨材のこと。昔は、光沢を出すために、羽のような柔らかい布で磨いたので「羽布」と漢字で書いた。現在、研磨材は化学工業製品が多いが、植物繊維やフェルトなどの布を使用することもある。#400は、そのバフ(砥粒)の番手で、数字が大きいほど細かくなるので、光沢が増す。研磨パイプの番手は、#400~#600が通常。
 板の場合は、片面研磨が通常(裏面は素地表面)のため、略して「片研#400」などと書く。両面研磨の板が必要な場合は特注手配になる。研磨面には、キズなどの防止のため、養生シート(テープ)が貼ってあるのが普通。

 

#700研磨、#800研磨 : このあたりの研磨レベルになると、ガラスの鏡と同等の感じになる。鏡面研磨と云うと、このレベルの研磨になる。キズ防止のため、通常、養生ビニールが二重張りになっている。板材のみ。専用の素材と専用の研磨機を使用して磨くので、とっても高価。加工製品を、手作業でバフ研磨する場合は、#600くらいが限度だと思う。ほとんど建築用の装飾金物用途。カーブミラーがどの程度の研磨かは、筆者は調べたことがありません。#700研磨は、JISでは「№7」の表記。

 

うろこ研磨 : うろこ状の模様(扇形が重なった模様)に研磨したもの。トラックのボディなどによく張り付けて使っている。トラック野郎が流行ったときはよく見かけたが、最近はあまり見ないようです。ウロコ模様の他にも、さまざまなデザインの装飾研磨ができるようです。

化学発色など : 装飾金物(建材)用途で、化学薬品によって表面(酸化)皮膜を変化させ発色させたカラーステンレスもあります。インコネル社が開発したので「インコカラー」の商標名が有名ですが、メーカー何社かが各々商品名をつけて販売しています。黒やゴールド色が代表的。酸化皮膜の厚さ加減により、光の屈折率を変えて発色させるとのことで、素地の状態がよくないときれいに発色しないため、通常は鏡面研磨素地になる様です。

 

 色とは別ですが、エッチング(表面を化学腐食)によって模様をつけた板もあります。エッチング加工品には、表札や銘板などの浮き彫りや、ステンレス風呂桶のデザイン模様などがあります。電気ヒゲソリの肌に当たる部分の穴あけ板は、エッチングで作られているのかどうか?
 熱によってステンレスを発色させることもあります。研磨したステンレスに適度な(徐々に)熱をかけると、黄色~ゴールド色の焼け色(皮膜)がつきます。オートバイのステンレスマフラーが排気熱でゴールドっぽく(虹色に)なっているのに気づく人も多いかと思います。「テンパーカラー」とも云います。テンパーは、熱処理(加熱)の意。

 

 表面仕上げの価格は、ステンレスの場合NO,1と2Bがベース(基準)になります。それ以外の表面仕上げになれば、価格は高くなっていきます。

 研磨した板には、傷の防止(養生)のために、ビニールなどが張りつけられています。よくあるのは、半透明の青色のもの。これはビニールではなくポリ製で薄く、劣化しやすい。プレス加工(深シボリ)のために張ることも多い。白い養生テープは、ビニール系で厚く、ポリに比べ強度・耐久性があります。養生テープのメーカーは、日東電工・スミロンなどが有名。テープメーカーの記号をもって、「SG」とか「SPV」とか書いてある場合がある。
 養生テープ付の板を使わずに置いておくと、テープや糊(接着剤)が劣化してはがれ難くなったり、ボロボロになったりします。そうなると、きれいに剥がすのにモー大変で往生します。テープはがしの為に板にキズをつけてしまい、ショックを受けることもよくあります。養生テープは鮮度が一番!賞味期限を大切に。(笑)
 なお、研磨表面の板以外でも養生テープを貼る場合があります。

 

 ステンレス(表面研磨)を使う目的として大事なことに、外観(美観やデザイン)とともに、ノーメンテナンス性能があります。
鉄製品の美観を保つには、定期的な再塗装や点検業務が欠かせませんが、ステンレスの場合は、そういうメンテナンス費用が少なくて済みます。何十年も使う建築部材などは、初期費用は高価でもメンテナンス経費を計算すると、ステンレス製のものの方がトータルコスト低減になる場合もあるようです。

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3.表面処理

 

以上は、材料素材での表面について、板を中心に述べましたが、次に加工されたもの(部品類)の表面仕上について簡単に説明します。業界では仕上というより、表面処理という言い方が普通になります。プレス・切削・溶接などで造られる複雑な形状の部品や製品は、バフ研磨が出来ないため、いろいろな方法で表面処理が行われています。表面処理は、単に外観だけではなく機能面も重視されます。

 

電解研磨 : 研磨液(薬品)のなかで、電気を通す(電解)ことによって、金属表面の凸部(ミクロンレベル)を溶出させることで平滑で光沢の有る表面にする。電気めっきと逆の理屈。ステンレスの表面に食い付いている汚れや不純物を取り除き、皮膜を強化するので耐食性が向上する。素材表面の鉄分が電解で先に溶け出すため、相対的にクロム成分が濃くなり、不動態皮膜が強固になるため(らしい)。
 薬品を使うため、排水処理設備が必要。当社にはその設備がないため、めっき業者さんに装置を置いてもらい、委託加工をしてもらっています。
 英語では、エレクトロ・ポリッシング→略して「EP」。ステンレス製品で「EPなになに」と書いてあれば、電解研磨したものの意味。

 

酸洗(さんせん・さんあらい): 強酸性の薬液に漬けたり、ペースト状の酸洗剤を塗るなどして表面を溶出させて洗う。光沢は出ないが、安価で大型の製品に対応できる。溶接焼けによる黒ずみを取るためなど、外観を問題にしないものであれば酸洗でOK。ただし、光沢のあるところも、つや消し状態になってしまう。低コストだが、劇薬使用のため専門業者でないとできない(廃液処理設備が必要)。英語は、Pickling(ピックリング)。

 

バレル研磨 : 小物プレス部品など数の多いものを、研磨石や研磨剤(コンパウンド)のなかに混ぜ込み、かき混ぜることによって研磨をする。かき混ぜるための機械の容器が、バレル(樽)のような形?なのでバレル研磨という。砂の中で芋を洗うような理屈。端部のバリやトンガリを丸くする(面取り)とともに、研磨石の種類によって独特の表面仕上りになる。バレル研磨の機械装置のメーカーは、チップトンやウジデンをよく聞くが、研磨方式などの違うメーカーも何社かある。

ショットブラスト : 製品に、小さな鋼球や石(研磨材)などを強く吹きつける(叩きつける)ことによって、バリを取ったり磨いたりする方法(機械)。吹きつける素材(目的)によって仕上りが違う。砂のようなものを使う場合は、サンドブラスト。ガラスビーズを使うと、ビーズショットなどと呼んでいる。基本的には、つや消し状(梨地)になる。鉄製品の錆落とし・黒皮はがし・塗装の下地づくりなど、美観用途以外でよく使われる。また、ショットの衝撃による表面硬化を利用して、製品の耐磨耗性(耐久性)を向上させる目的の場合もある。ショットブラスト機械メーカーは、不二製作所や新東工業が大手。

 

コーティング・塗装 : ステンレス製品にコーティングを施すこともよくあります。ゾル(塩化ビニール系)・ナイロン(ポリアミド)・ポリエチレン・ポリプロピレン・フッ素樹脂(テフロンは商標名)などその用途目的によって様々なコーティング材があります。(塗装もコーティングの一種)
 ステンレスにコーティングをする目的は、キズの防止(クッション)や電気の絶縁など機能的なことが主で、外観のためにコーティングをすることはあまりないようです。
 ステンレスに、めっきや防錆処理をすることもあります。建材(屋根・壁)用のステンレス板なども、装飾・防錆のため塗装されたものが既製品として造られています。

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4.ステンレスの腐食や割れについて

 

 材質のところで先述したように、ステンレスは「錆びない」わけではありません。家庭での水周りであれば、ほとんど問題はありませんが、加工の影響や使用環境によって、様々な腐食を起こすことがあります。産業用(工場設備)に使う場合は、腐食によるトラブルが大きな損失につながることもあるので注意が必要です。用途に合った鋼種を選定することが大事ですが、使用上(メンテナンス)の留意点として、以下のようなことを知っておくと良いと思います。

 ●溶接による熱影響部~溶接で溶けたところの周囲(素材との境目あたり)は、熱による金属組織の変質によって腐食が早く現れます。ステンレスの場合は、「2番割れ」といって、熱影響部で割れることがあります。
 溶接の熱影響で金属組織を変質させて腐食割れなどの原因の一つが炭素(C)です。熱によって炭素が固まり(析出)、金属粒子の間に入り込んで割れや腐食をおこす起点になるとのこと。そんな訳で、溶接加工品では、耐久性を上げるため(割れ防止)にローカーボン材(記号の後に「L」が付いた鋼種)を使用することが多いようです。
 また、TiやNb(ニオブ)を添加した鋼種は、それによりカーボンの析出を抑える役目があるようです。

 ●厳しく加工された部分~曲げ加工やシボリ(プレス)加工などで、金属組織が強度に引き伸ばされたりしたところも、同様に腐食を起こしやすい部分です。また、金属が延ばされたところでは、目に見えないようなヒビ(クラック)などができ、そこが腐食や割れの発生点になる場合があります。

 ●繰り返し屈伸(振動)などの外力が加わるところ~金属疲労による割れや腐食が発生しやすいところです。熱がかかったり冷えたりを繰り返すことも、熱膨張によって屈伸が起きることになります。

 ●汚れが付着しているところ~湿気を持ちやすく、もらい錆や孔食(点々に腐食)の原因になります。汚れではありませんが、海風を常に受けるところは、塩分が付着(湿気)して錆を発生させます。海に近いところや、船やボートの艤装品などでステンレスが茶色になっているのは、大抵塩分が原因です。艤装品には、耐食性のよいSUS316もよく使われています。
 工場地帯(煙突)や排気ガスなどで、大気汚染の強い場所も腐食が起き易い環境です。亜硫酸ガス・汚れの付着→酸性雨→金属の腐食という図式。

 ●タンク(槽)の液面付近~薬品槽などでは、常に濡れた状態で空気に当たっているようなところが、腐食が進みやすいところです。濡れたり乾いたりを繰り返すことで、腐食を引き起こす成分が濃縮されることが原因らしい。

 ●違う金属と接触しているところ。例えば、鉄とステンレス、アルミとステンレスのように違う金属同士が接触している(隙間のある)ところは、電位差による腐食が起きやすくなります。特に湿った環境では電池作用が起きやすいので注意が必要です。(卑金属の方が溶け出す)。ステンレスでも鋼種が違うと起こるかも知れません。犠牲防食といって、わざと卑な金属を溶かすことで腐食を防ぐ方法もあります。(高校で習ったイオン化傾向の呪文を思い出そう!)
 鉄製品の防食目的に、亜鉛鍍金が多用されますが、亜鉛は鉄よりも卑な金属のため、キズなどが付いても亜鉛が溶け出して鉄のサビが広がるのを防いでくれています。

 ●「もらいサビ」~工場などでは、グラインダーなどによる鉄粉が付着したり、他の鉄材料と一緒に置いてあったりすると、そのサビがステンレスに移ってしまいます。こういうサビは、赤茶色の鉄系の錆色になります。常に清掃をしましょう。くれぐれも、ステンレスは鉄がベースの合金だということを忘れずに。ステンレスを削った粉塵の中には鉄分が多く含まれています。削り粉が付着したまま湿気を帯びたりすれば錆の発生源になります。

 ●ステンレスの黒焼け ~ コンロ金具や炉などの直火(高熱)などにあたるものは、熱による焼けで、ステンレス表面が次第に黒ずんでいきます。ステンレス製のヤカンも長年使っていると焼け色が濃くなっていきます。溶接部周辺も熱による黒焼けが起こります。前述のテンパーカラーと同じ理屈で、熱による酸化皮膜(黒皮・酸化スケール)ですが、これは見た目には美しいものではありません。また、皮膜以外にも付着した汚れが熱で焼きついている(お焦げ)ことも多いと思います。皮膜自体は腐食とは異なりますが、錆の発生し易い所になります。
 こういった熱による黒ずみは結構強固なので、洗剤やたわしでこすったくらいでは、なかなかきれいになりません。家庭で手入れをしたい場合は、ホームセンターなどで、ステンレス磨き用の研磨剤の入ったクリーナーなどが売られていますので、一生懸命磨いてみてください。(研磨剤・コンパウンドが荒いと、磨き痕が残ります)

 

 以上は、ステンレスに限らず、金属一般にも言えることです。サビの発生原理を詳しく知りたい方は、書籍等が出ていますので調べてみてください。局部電池による、酸化還元作用などが分かりやすく書いてある本があります。

ステンレスの腐食で特徴的(怖い)なのは、鉄の赤錆のように目にみえず、金属組織の中で割れなどを生じることです。粒界腐食・応力腐食などいろいろな腐食形態(原因)がありますが、目に見えないところで腐食が徐々に広がり、あるとき突然板が割れたり、棒が折れたりします。
 そういう腐食を未然に発見するには、超音波や薬品などを使った検査が必要になります。キズを探すテストなので、超音波探傷試験などといいます。もらいサビのような表面的な腐食よりも、目に見え難い腐食が問題です。

 

 薬品の中で、ステンレスの腐食率の高いものの代表は、塩酸・硫酸・海水など(塩素イオン環境)です。腐食率が高いといっても、すぐ溶けてボロボロになってしまうわけではないので、高価な特殊鋼種を選んで長持ちさせるのか、短期間(修理)で回転させるか、または、同じ鋼種でも板厚や太さを変えてみるなど、対費用効果で判断することになります。

 台所の中では、醤油(みそ)や塩がステンレス(金属)を腐食させる大きな要因です。こぼれた醤油は、こまめにふき取りましょう。醤油ビンの丸い形にシンクに跡が付きますよ。(笑)

​ 日本酒やワインの醸造所、ビール工場のタンクなどはステンレス製のものが多く使われていますので、酒類の容器にはステンレスは大丈夫のようですね。でも日本酒や味噌醤油の醸造桶は、昔ながらの木製の方が、発酵菌のためにはよさそうだと私は思います。(醸造所独自の菌が居着くらしいですね)
 我が家の実例ですが、自社で作ったSUS304製の傘たてがあるのですが、うちの犬くんが時々それにおしっこをかけるのです。不精なため水洗いをせずにほかって置いたら、だんだん茶色にサビが浮いてきてしまいショックでした。油断大敵、灯台基暗し、おしっこはステンレスにとって結構厳しい薬品だと気づいた始末です。鉄製の街路灯のポールや遊具の支柱の根元の腐食が進みやすいのも、湿り気だけでなく犬のオシッコが大きな原因らしいです。

 ステンレスの薬品に対する耐食性は、使用する薬品の種類はもとより、その濃度や温度などにより大きく変わりますので、詳細は専門書で調べたり、ステンレスの素材メーカーなどへ問い合わせるなどお願い致します。

 

 余談になりますが、オーステナイト系ステンレスの中に、ニッケル(高価)成分を減らして、その代わりにマンガンを入れた鋼種(SUS201)もあります。本来は高張力部材用途の鋼種のようですが、Niが少ない分安価なため耐食性に難があっても、SUS304の代替的に使われている場合があると聞きます。いつもより製品の腐食が早いので、調べてみたらSUS304ではなくマンガン入りの鋼種が使われていた、という話を材料商社の方から聞いたこともあります。(筆者は、未だ使った経験ありません)

 使用者は、その材料(JIS規格)を保証する検査証明書(ミルシート)をもらうことができますが、ばら売り材料などで、製造メーカーや製造ナンバーなどの分からなくなったものは遡及できません。まして加工製品になると、ユーザーは鋼種を見分けることができないので、「ステンレス製」だけではなく、ちゃんと鋼種を明示しているかを確認することが大事です。
 記録(トレーサビリティ)や出自の分からなくなったステンレスの鋼種を特定するには、工業試験場や、金属組成を分析してくれる業者さんに現物を持ち込み調べてもらうしかありません。(もちろん費用がかかります。)

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5.メーカーや商社・販売店

 

  ステンレス材料を生産している会社(メーカー)を、大きく分けてみました。

1.元になる鉄を(鉄鉱石から)造っている会社(高炉)
ステンレスは鉄がなければできませんので、※新日鉄住金、JFEスチール、日新製鋼 などの製鉄メーカーは、鉄だけでなくステンレスも造っています。高炉メーカーと呼んだりします。

高炉メーカーに対して、鉄やクロム・ニッケルなど(地金・リサイクル材)を購入して製造している会社を「電炉メーカー」(電気炉の意)と呼ぶことがあります。「低炉」ではありません。
 また韓国にポスコという大手製鉄メーカーがありますが、そういった外国製のステンレス材料も多く輸入販売されるようになりました。

 ※メーカーの合併などにより、現在、会社名が変わっています。

2.ステンレス(特殊鋼)を専門に製造している会社
日本冶金工業、大同特殊鋼、愛知製鋼、山陽特殊鋼 などの専業メーカー。

板が専門とか、丸棒やアングルがメインというようにメーカーによって、製造品目に特色があります。

3.ステンレス2次加工材料メーカー
パイプ・フラットバー・線材・型鋼・バネ鋼・箔・意匠鋼板などを製造している会社です。アラヤ特殊金属、モリ工業、ナストーア、日本精線、日本金属、高砂鐵工、など生産品がある程度専門化しています。

 

 上記などの材料メーカーは、小売販売をしていませんので、商社(卸)や販売店を経由して一般市場で販売されることになります。商社・流通業者は、メーカーへの手配(製造依頼)、在庫管理、卸売り、一般販売など流通業務を担っています。私どものような工場は、ステンレスの専門商社(問屋)や、鋼材商(販売店)などの流通業者から材料を仕入れることになります。流通業者は、仕入れた材料をそのまま売るばかりではなく、切断加工(スリット、シャー、レーザ、プラズマ)や曲げ・ロールなどの加工設備をもってユーザーの注文に対応しています。

「コイルセンター」というのは、大きなコイルを、小さい巾のコイルに切断(スリット)したり、平らに伸ばして所定のサイズに切ったり(レベラーカット)する工場のことです。現在コイルセンター機能は、流通業者が受け持っている割合が高いと思います。
 ちなみに、ステンレスの板は、製造会社がコイルを平ら(レベラー)にしたものと、流通業者がコイルで仕入れて自前でレベラーカットしたもの(コイルカット定尺)があります。メーカーが作った板(メーカー定尺)には、そのメーカーの名前や材質、製造№などのハンコ(ステンシル)が押してあります。
 現在、材料メーカーが生産しているコイルは大型化していて、1コイルの重さが20トンとか30トンになっているらしく、私どものような少量ユーザーは「切り売り」や「小売」をしてもらうことの出来る流通商社・コイルセンターがなければ材料仕入れが出来なくなってしまいます。

 

 付足しに、ステンレス材料の価格の大元になるのが、合金の原料となる鉄・クロム・ニッケルなどの価格です。金属(貴金属)の原料相場は、世界の需要・供給や投資対象として常に変動しています。材料製造コストがほぼ一定と考えれば、ステンレスの価格変動の大きな要因はこの金属相場の変動にあります。特にニッケルなどのレアメタル・貴金属になると需要動向とともに投機的な価格変動も大きいようです。(困ったことです。)ニッケルなどの金属市場には、売買の取引所があり(LME・ロンドン)、そこで世界的な金属原料価格が決まるようです。LMEの動向は、インターネットでも調べることが出来ます。ニッケル鉱山のストライキなどが起きて、ステンレスが値上がりするといったこともよくあったようです。
 皆さん、先物取引や貴金属相場で一儲けなんて思っちゃ絶対ダメでですよ。素人が手を出す世界じゃありやせん。鉱山を探し当てるプロでさえ「山師」と呼ばれます。

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6.ステンレス材料の形状・規格サイズなど

6-1.板(単位はミリメートルです)
 板厚は、0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 1.0 1.2 1.5 2.0 2.5 3.0 4.0 5.0 6.0㎜ が冷間圧延品(2B材)の標準厚さ。
 熱間(HOT)材は、3㎜以上の厚板(10㎜とか20㎜とかいろいろあり)
 よって、ステンレス板厚の3~6㎜のものには、熱間品(№1)と冷間品(2B)の両方があるので、用途によって使い分ける必要があります。

 板厚には、JISで許容差が定められていますが、実際(現物)の板厚は、マイナス公差品が通常です。厚くなるほど許容差は大きくなるので6㎜の板なら、実際測ってみると5.8㎜とか5.9㎜とかなってきます。製造コストから考えれば、プラス公差をねらってつくることはないと思われます。
 また、圧延製造上の理屈として、ロールで押しつぶして板を延ばすのため、圧延ロールがしなる(たわむ)ことになります。その分だけ、どうしても板幅の真ん中辺りが厚くなり、端の方が薄くなるとのことです。(この「中ふくらみ」をなくすため、圧延装置は、ロールをピラミッド状に何段にも重ねて、しなりを防ぐようにつくられている。多段ミル。)
 かといって、いちいち板の端と中心部の板厚の違いを、私は調べたことはありません。
 付け足しに、圧延してできたコイルの初めと終わりの方は、板厚や表面の仕上がりの品質が安定しにくいところになります。その部分をコイルの「トップエンド」といい、規格外の部分を切り分けることになります。こういった派生材も、2級品として流通し利用されているとのことです。材質上問題なければ、多少の板厚や表面のことは問わない用途のものはたくさんあります。

  鉄(SS)との違いで注意点は、鉄板でよく使われる板厚の1.6 2.3 3.2 4.5㎜ が通常品としてはない。鉄は、インチ(フィート)単位の規格が基になっているが、ステンレスはミリメートル単位の規格で造られているので、こういうズレがある。板厚は、「t」(てぃー)をつけて表す。例えば2㎜の板は、「t2」とか「2t」とか書く。「t」は、シックネス・thickness のt。

  ちなみに、板厚には業界独特の呼び方があります。
 例えば、0.5 0.8を「こんま・ご」「こんま・はち」などと、1ミリ未満は、「こんま」を付けて呼ぶ。「れいこんま・さん」とはあまり言わないが、間違い防止のために、「れいさん」「れいろく」などと云う時もある。

 1.0tは、そのまま「1ミリ」
 1.2 1.5 1.6 は、「てん・に」「てん・ご」「てん・ろく」

 0.3㎜未満の板厚になると、腰がないためシート状(メーター板サイズ)ではつくられていません。通常アルミホイルのような巻物(コイル)になっているはずです。(腰の強いバネ材は、400×1000くらいのサイズ(小板定尺)で小売されている。)
 このような板厚の材料は、極薄板とかステンレス箔と呼ばれています。これらは一般的な板金製品用途ではなく、精密プレス部品や電子部品材料、エッチング部品、またはベローズやガスケット、粘着テープなどに使われることが多いと思います。

規格(既製材料)のサイズ

  規格サイズの板を、定尺板(ていじゃく・ばん)と呼んでいます。

1000×2000 ~1メートル×2メートルのサイズなので、通常「メーター板」(めーたーばん)と呼んでいる。
 鉄の定尺914×1829のサイズは、ステンレスでは基本的には無い。914×1829という中途半端なサイズは、3×6フィートをミリ単位に換算したもの。「さぶろく」と呼ぶサイズ。鉄板だけでなく、ベニアなどの建材などもこのサイズ規格が多い。日本の「尺」とフィートは、ほぼ同じ長さなので、3尺6尺などと呼ぶ人もいるが、業界の人は当たり前でも、一般の方には混乱の元かも(笑)。
 ちなみに、1フィート=304.8㎜  1インチ=1フィートの12分の1(25.4㎜) 1尺=303㎜ 後は自分で調べて下さい。

1219×2438 ~4×8フィートなので「しはち」と呼ぶサイズ。なぜかこのサイズ以上は、ステンレスでもフィートサイズになっている。理由を筆者は調べたことありませんが、鉄と同じほうが製造設備的に楽なのだと思っています。アルミの定尺は、1250×2500でできている。

1524×3048 ~同じく「ごっとー」と呼ぶ。
 尚、業界の人が「4巾・よんはば」「5巾」などという場合は、4フィート巾・5フィート巾の板類(コイル)のことを指しています。

定尺に対して、規格サイズ以外の板(切板)を「スケッチ」「スケッチ材」などと呼ぶことがあります。なぜ「スケッチ」と言うのか調べたことはありません。(おしえて!アルムの森の木よ)業界言葉だと思うので、一般の人には、「切板」とか「切断板」とか言うほうが分かりやすいと思います。

 板の仲間に、表面に滑り止めの山(デコボコ)が付いた「縞板」(しまいた)があります。床や階段に使われているので皆さんもどこかで踏んづけたことがあるはずです。建築物では殆ど鉄のものだと思いますが、サビや塗装を嫌う食品工場や屋外施設などでは、ステンレスの縞板を使うことが多いようです。(何十年も使うものは、材料費や初期費用は高くても、メンテナンスなどのランニングコストを考えてステンレスが採用される。)
 縞板の縞模様は、メーカーにより違いがあるようです。大差はないでしょうが、縞模様の違いによる重量のちがいもあるらしい。シマイタを「チェッカープレート」と呼ぶこともあります。
 シマイタに似たものに、プレス加工によって凸凹の模様を付けた板もあります。一般には「エンボス」と呼ばれているようです。エンボス板メーカーは高砂鉄工が大手。

 

ステンレス定尺板の価格体系は、おおよそ次のようになっています。
ベース価格:SUS304(SUS430)2B 2t~6tの価格(基礎になる重量単価)
+板厚エキストラ(増値):ベース板厚以外の場合の加算価格
+鋼種エキストラ:鋼種ごとの加算価格
+表面仕上げエキストラ:研磨仕上げ(養生テープ)などの加算価格
(+梱包・運送料などの加算・注文量による違いなど)
このような内訳で、キログラム(トン)当たり○○円といった材料価格が計上されています。もちろん金属相場や需給に応じて価格は変動しているので、同じ材料を同じ量で買ったとしても、時と場合で値段は違ってきます。材質だけで価格が決まる訳ではありません。
 ちなみに、このエキストラ価格(体系)は、最近の製造コスト事情にあわせて改訂されているようです。また、ベース価格は、クロムやニッケルの国際価格に連動して変動する「サーチャージ」制が導入されているようです。

 

ステンレス板をコイル(母材のコイルを、任意幅・長手方向に切断して巻き直す・スリット加工という)にしたものも、もちろんあります。コイル状の材料の用途は主に、①量産プレス加工で連続的(自動)に材料を機械に送り込むため。 ②長尺の製品を造るため。例えばパイプとかサッシ・モールなどのロール成形加工用。

6-2.フラットバー・角棒

  フラットバーは、平らな(フラットな)+バー(棒)です(笑)ので、日本語では「平鋼」と呼ばれます。断面が長方形の細い幅の板材の総称。板厚は2㎜以上で、定尺の長さは殆ど4mです。同じく角棒は断面が正方形の棒。ただし「スクエアバー」と呼ぶのはあまり聞いたことはありません。(言い難い?)
 既製品のサイズは多様にありますので、いちいち書き上げません。(必要な方は、鋼材屋さんにステンレス材料のカタログをもらってください。以下同様)。鉄の材料に比べサイズバリエーションが豊富なので、助かります。
 板材と同じくホット材とコールド材(及び研磨仕上げ品)があります。板と同様で、ホット品は、柔らかく、精度がラフ、表面は基本的に酸洗肌です。コールド材のほうが腰が強く、精度がよい、表面はHL的な光沢肌です。(値段も高い)。図面などでは、flat barを「FB」と略記することが多い。同様に「SB」は、スパイスのメーカーですが、角棒・square barの略記号でもあります。余談、直角定規は「スコヤ」で、断面積(平方)は「スケア」と云いますが、サッカーの「シュート」は、ゴルフの「ショット」?
 記号FBの前や後ろにHとかCとか付いていれば、hot材とcold材の区別の意味です。
例えば、「304 FB H 6×30×4000」と書いてあれば、鋼種SUS304のフラットバー・ホット材 厚6㎜ 幅30mm 長さ4000(定尺)のことです。記号の順番はまちまちです。
 ステンレス材料の記号に「H」がついていたら、それはエッチな材料ではありません。くれぐれもお忘れなく。(ホット材と呼びましょう)
 FBの価格は、定尺板に比べればもちろん高価になります。薄く細くなると余計に重量価格は上がります。しかし、フラットバーは高価だからといって、シャーリングで板を細長く切ると、材料がひねくれてしまったり、切断バリ(破断面の危険なトンガリ)がでるため使い物にならない場合が多く、フラットバーが必要になります。
 フラットバー・角棒のほかに、六角棒(Hex.bar)もあります。六角棒は、6角レンチで形状はお馴染みでしょうが、6角レンチは工具鋼(鉄)で造られているものが普通で、私はまだステンレス製の6角レンチを使ったことがありません。
 ちなみに私は、ショットバーでチョッと一杯が好きです。(トリビア風)

6-3.丸棒(まるぼう・Round Bar・RB)・線材(Wire・Rod)

  断面の形が円形の長い材料が丸棒です(当たりマエダのクラッカー)。英語で云うとラウンドバーなので、図面に「RB10mm」とあれば、直径10㎜の丸棒のことです。でも、実際RBと書いてあることはあまりなく、大抵、丸い形状を表す「φ」(パイと読む)を使っています。「φ10」が直径10㎜の意。ただし、略図などで丸棒なのかパイプなのか判らないようなときは、間違えないためRBとか丸棒とか書きます。「φ」は、円形のもの(直径)全てにつかうので、円形の板やパイプ・リング・丸い穴などの直径を表す記号として多用されます。(ウェブ上での「φ」は、文字化けしていると思いますのでご了承をお願い致します。手書きでは、ギリシャ文字のファイの形の記号・○の上に数字と間違えないため/斜線を描く・丸の意。何で文字化けするのでしょうか?ITに弱いのでごめんなさい。)

さて、本題に戻りまして、丸棒材料の太さには、電柱のように太いものから、針のように細いものまで多様なサイズがあります。扱う業界によっても違うのでしょうが、私の近辺では熱間製造(HOT)材料のある8φ以上の径のものを「丸棒」と称し、それより細いところを「線材」とか「直線」(Wire Rod)ということもあります。細径のものは、製造工程からみるとコイル状に巻かれたものを、真っ直ぐにして造られるため「線材」「直線」と呼ぶことが多いのだと思いますが、定かではありません。線材を「ワイヤー」と呼ぶことも多いので、その辺が、棒(ロッド)とワイヤーの境界線だと思います。ただし、1、2㎜の細い線でも、真っ直ぐなものは丸棒と言ったりするので、その辺は適当です。(相手にわかることが大切)。針金のように、くにゃくにゃしたものやコイルに巻かれたものは、丸棒とは言わず、線とかワイヤーと呼びます。一般の人には、線とかワイヤーというと、電線みたいなイメージが強いのではないでしょうか。
 なおJIS規格では、ステンレス鋼線としての記号はワイヤーの頭文字を使って、「W1」とか「W2」とかなっています。でも一般のユーザーさんには、鋼線とか線材とか言うより、丸棒と言う方が判り易いと思いますので、無理に「鋼線」と「鋼棒」を厳密に区別して話す必要もないと思っています。(本題に戻ってない。)

​​ さらになお、「ワイヤード」は有線通信、「ワイヤレス」は無線通信です。

 あらためて本題。丸棒のサイズ(太さ)は、多種に及ぶため各自お調べ下さい。SUS304が基本です。鋼種によっては、あるもの無いもの、サイズ限定のものなどまちまちです。ここでは種類について説明します。
 酸洗丸棒:熱間製造品・HOT材。熱処理後、酸洗した仕上のためこう呼ぶ。HOT品のため腰が弱い(曲げ易い・曲がり易い)。φ8~φ20くらいがメインサイズ。安価だが、精度はラフ。一般用途。研磨仕上げには不適。
 ピーリング/Peeling:黒皮を削るなどして剥がしたもの。「ピール」は皮むきの意。表面はつるっとしているのできれい。φ8以上~太もの。一般用途。切削部品用途。プラス公差(-0)でつくられている。
 引抜(ひきぬき):ダイスを通して冷間引抜加工したもの。表面はきれいで精度がよく腰が強いため、シャフト(回転軸)やロールなどに使われる。酸洗やピーリング材より高価。サイズはφ5~φ60位。マイナス交差品。許容差精度は、H9級程度。「H9」とか「H8」とかの精度規格はJISで決められているので、各自調べること。(はめ合い用途)。引き抜きは、冷間加工なので、COLD材に当る。(鉄のように、ミガキ丸棒と言う人も多いので、要注意)。
 引き抜きは、英語で「ドロー」なので、記号「D」で表す場合がある。(丸棒に限らず)。
 ピーリング材と引抜き材は、どちらも似たような光沢表面のため、外観での区別は困難ですが、精度(公差)や価格は大きく違うため注意が必要です。(酸洗丸棒は、外観で誰でも見分けがつきます)。
 直線:もともとコイル巻きの線材を、直線機にかけてまっすぐにしたもの。表面は、板で言う2Bのような感じ(冷間肌)。硬さに種類あり、柔らか順に、SW1(なまし)<SW2(中間)<SW1/2H(半硬)<SWP(バネ線)。太さは、φ1~φ8位がメイン。基本的にマイナス公差。(SWは、ストレート・ワイヤ)
 センタレス:センタレス研磨仕上げにより、公差精度・真円度を高めた丸棒。(h-7級程度)
 その他、外観装飾用途のため、HLや光沢研磨した丸棒も既製品として造られています。

 まれにですが、熱間鍛造用の丸棒で、酸洗いをせず黒皮(黒い酸化皮膜)のままのものもあるようですが、それは用途上、酸洗が不要なため省いている(コスト低減)と云うことだと思います。(私は使ったことがありません)

 6-4.パイプ
  パイプは用途で大別すると、1・配管用 2・構造用 の二種類に分かれます。
  配管用とは、パイプの中に気体・液体や粉など(流体)を流すためのもの。身近なものでは、水道管のような用途。中に圧力がかかって破裂しては大変なことになるので、パイプの太さと耐圧によって肉厚(パイプの板の厚さ)が決められている。配管パイプの記号は、TP(チュービング・パイプ?)でその後に、製造方法などの記号が付く。サイズは、JIS3459の規格による。定尺は、4mが主で、6mものもあり。表面は基本的に酸洗肌。
  配管パイプの径の言い方(呼び径)には、10Aとか25Aとか「A」をつけて表すのと、3/8Bとか1Bとか「B」(インチ呼び)をつけて言う方法の二通りがあります(ややこしい!)。一般の人はそんな呼称を知らないと思うので、外径をミリメートルで表す方が間違えがないと思います。例えば、25A=1B=外径34㎜  50A=2B=外径60.5㎜ となってます。
 さらにややこしいのは、1Bを「インチ」のパイプとか、3/4Bを「6分・ろくぶ」・1‐1/2Bを「インチ半」とか呼び習わしています。「インチ」のパイプの外径は、25.4㎜ではなく34㎜なのです。φ25.4㎜のパイプもありますが、そのサイズには呼び径はありません。なぜこんなことになったのか定かではありませんが、職人衆の尺貫法の言い方(何寸何分)とインチの言い方が混用されて、慣用されるようになったのだと私の先輩は言っておりました。(34㎜→1寸位のパイプ→1インチの説)

  配管パイプの記号TP-A(てーぴーえー)の「A」は、アーク溶接のAで、板を巻いて溶接して造管したものの意。現在では、実際の溶接法は、高周波・プラズマ・レーザー・TIG溶接が多いはず。溶接造管品なので、溶接管とか電縫管(でんぽうかん・電気で縫う)とも言う。パイプの内面をよく視ると溶接跡(ビード)があるので、指でさわってみよう。ものによって溶接の膨らみを削って滑らかにしたもの(ビードカット)や、ふくらみが残っているものとか違いがあるはずです。


  記号TP-S(てーぴーえす)の「S」は、シームレスの「S」。シームレスとは、継ぎ目が無いと言う意味で、溶接造管ではなくロッド(丸棒状の素材)から引抜きなどの造管方法でできたパイプ。日本語ではそのまま「継目無し管」と書かれているが、通常はシームレス管と言う場合が多い。板巻き(ロールフォーミング)では不可能な厚肉または極薄のパイプを作ることができる。また、造管の溶接部がないため腐食や割れに対する信頼性が高く、より耐久性や強靭性を要するようなところに使われる。ただし、値段は高価になります。
 シームレス管は、溶接管に比べ多様なサイズ・肉厚のものがあるため配管用途以外に、切削部品用の材料として使うことも多い。筒状の部品をつくるとき、丸棒から削りだすより、パイプ材から作ったほうが楽です。コスト的には、安い材料で高い加工費なのか高い材料で安い加工費かの選択ということになります。切削部品(構造)用の、厚肉のシームレス管を「ホローバー」(空洞の丸棒の意)と言う場合もあります。(サンドヴィック社の商標名?)


 セミシームレス管というのもあります。日本語で、蝉継目無管とは書きません。溶接造管のあと、熱処理(金属組織の均一化・応力除去)と引抜加工を経て製造する。溶接管とシームレス管のハイブリッド。

 さて、注射針はどうやって作られているのか?!


  記号TP-A(S)-Cの「C」は、冷間製造のコールド。「H」なら熱間製造のホットの意味。ただし、パイプの場合は冷間熱間を区別する必要はまずないと思うので、筆者は、通常TP-A(S)までしか書きません。

 なお、TPではなく、「TB」と書かれているのは誤植ではなく、ボイラーチューブの規格記号。(熱交換用途)

 

 構造用のパイプとは、構築物のフレーム(柱など)や機械のパーツに使ったりする用途のもの。配管パイプのサイズとともに、それ以外の多種多様なサイズ(形状)が揃っている。丸以外の、角パイプ(正方形・長方形)や異形パイプもあり。手摺やエクステリアによく使われる研磨パイプ(化粧管)はこの類。
 配管パイプは用途上、耐圧力や内面が重視されるのに対して、構造用のパイプは、強度やサイズは勿論ですが、外観的な面でその意匠性が重要になります。逆にそのため内面には結構ビード(溶接の跡)がそのまま残っていたりします。しかし、配管パイプだからといって、構造用に使ってはダメという訳ではありません。

​​ 構造用パイプの記号は、TKA(丸パイプ)・TKR(角パイプ)。「k」は構造用の意。
 角パイプを配管に使うことはないと思いますので、角パイプは構造用(フレームなど)になりますが、

​私はTKRとかの記号をあまり使ったことがありません。「角パイプ」って書いてしまいます。(配管用の角パイプってあるのかな?)

 

 パイプ製品に不可欠なのは、パイプをつなぐための部材です。例えば、90度に曲げて継ぐエルボなどがあります。そういう部材を総称して継手(つぎて)と呼んでいます。継手には、ネジのものと、溶接用のものがあります。現場配管の場合はネジ継手が主になります。配管パイプのサイズ毎に、ネジの規格が決められています。
 継手は、形状(継ぎ方)ごとに名前が付いています。例えば、エルボ・ティー(チーズ)・フランジ・ソケット・ニップル・ユニオン・レジューサー・キャップ・プラグ…などなど。注意点は、ネジか溶接用か間違えず手配すること。手配ミスはこういった単純なところで起きるものです。
 角パイプ用のエルボなども、最近ではあるようです。

 6-5.アングル・チャンネル(形鋼)
 「アングル」とは、断面がL型の材料。日本語式では「山形鋼」と書くが、一般的にはアングルという。「チャンネル」は、テレビ局のボタンのことで、よく家族で取り合いになるものであるが、鉄鋼業界では、断面がコ形をした材料(溝形鋼)を指す。鉄もステンレスも同じ言い方をします。ステンレスは、鉄に比べ、サイズのバリエーションが多い。(不等辺アングルなどもある)。
 図面では、L50×3(アングル)とか、コ50×100×6(チャンネル) とか書いてある。
 アングルは、英語でカド(角度)のこと、チャンネルは溝・水路のこと。(水路の形は、コの字形?)。ブランド品のシャネルは?私は持ってませんので、関心ありません。
 通常、アングルなどは、熱間圧延・酸洗表面のものになりますが、板を成形(ロールフォーミング)した冷間表面のものもあります。それらを、「フォーミングアングル」とか「折り曲げアングル」とか称しています。薄物・細物が主体。フォーミング材は、外側の曲げカドに丸みがあるため、外観だけでなく手触りを要求されるショーケースなどの縁取りによく使用されます。
 その他形鋼には、鉄材料と同じように、H形・I形・C形チャンネルなどが造られています。

 フラットバー・丸棒・パイプなどの価格も板と同様に、基本的には細く薄くなるほど重量当たりの価格は高くなっていきます。また、HOT材(酸洗)→COLD材(引抜など)→研磨仕上品、というように材料価格は高くなっていきます。


 製造方法と表面(仕上げ)との関係をまとめると、
①熱間製造材(HOT)は、酸洗表面が基本(ほとんど)。但し、研磨仕上げなどにより光沢肌の材料がある。
②冷間製造材(Cold)は、光沢肌が基本。でも、パイプのように、二次加工後の酸洗表面もある。

 

 6-6.その他
 パンチングメタル :たくさん穴を開けた板。通常は丸穴だが、長丸穴や角穴など多様にある。板金加工で、穴を開ける加工を「パンチ」(打抜きの意)と呼ぶため、パンチングメタル・パンチ板(略してパンチ)・打抜金網など色々な呼び方をしている。遮蔽・選別用途に使う意味で、「スクリーン」と云うこともあり、決まった名称があるわけではなさそう。
 パンチングの板をよく知らない人から電話で、「アミが・・・」といわれる場合が結構あるのですが、よくよく訊くと板に丸い穴が開いていることがわかり、パンチングのことだと判明することもあります。私どもは、パンチングと金網を区別しないと仕事になりませんが、一般の方には、どちらも「アミ」であり、カゴやザルのことも「アミ」という人も多いので気をつけるようにしています。
 とにかく、板に穴をたくさん開けたものがパンチングメタル(打抜板)で、線材を織った(編んだ)ものではありません。
 ステンレス・鉄・アルミ・樹脂などさまざまな素材でパンチング板が作られています。
(パンチングについての説明のページを参照)

 エキスパンドメタル :ひし形の穴と言うか開口部のアミ(?)。板に交互に刻み(切り込み)を入れてその板を拡げると、刻みを入れたところが菱形に広がってネット状になる。七夕飾りの切り紙のような造り方。引っ張って造るので、エキスパンドとかエキスパンションとか呼ぶ。菱形ネット状だが、もともとは板材から出来ている。小さな板が大きな面積になるので、パンチングメタルより安価にできる。開孔率がよいが、ギザギザな形状や破断面のバリなどの具合で手触りのよいものではない。(平らにつぶしたものもできる)。写真でも載せればいいのですが、面倒なのでご勘弁を。(他のWEBページで見てください)
 細かな目合いのものは、ラス網と呼ばれ、モルタル壁や土壁などの下地(補強)材として使われている。

 金網 :線材を織ったもの。または編んだもの。布生地と同じで、縦線と横線を交互に織って網にしたものが「平織金網」などにあたる。フェンスやバックネットで使われる網は、編んでつくるので、Crothではなく「ニット」製品。
 ネットは網のことで、メッシュは網目のこと。今や「ネット」というとインターネット(世界電網)のことになるらしい。「ネットカフェ」を漢字で書くと、電網茶店?。WEB(うぇぶ)は、蜘蛛の巣状の、通信網。「ネット重量」とか言う場合は、入れ物を除いた中身の重さのこと。世の中、いろいろなネットがありますね。
 金網にもいろいろな種類があります。詳しくは、当ホームページの金網解説の方を見てください。

 鋳物 :ステンレスでもイモノがあります。鉄やアルミのイモノと同様で、通常溶かした金属(ステンレス)を砂型の中に流し込んで固めてつくる。精密なものは、ロストワックス製法など。鋳造(ちゅうぞう)は、イモノ製法のこと、英語では、キャスト/Casting。「ダイカスト」は、「ダイ+キャスト」。弊社は鋳物に関しては専門外のため、詳細は各自お調べ下さい。鋳物の材質記号があります。

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7.ステンレスの加工

 

 ステンレスだからといって、ステンレス専門の加工機械があるわけではなく、一般的な金属加工の機械を使って加工をします。加工の内容によって「工作機」「鍛圧機」「板金機械」などと総称していますが、金属を加工する機械は、一般的に「鉄」を加工することを基本にして造られているため、ステンレスを加工する場合は、いろいろな面で機械の能力の制約とか、加工上の工夫(ノウハウ)とかが、鉄に比べてどのように違うかがポイントになります。
 ステンレスを加工する場合、鉄に比べて難度(機械工具の能力)が高くなることが多いので、同じ機械を使っていても、鉄をメインにしている業者とステンレスをメインにしている業者では対応が違ってきます。それは、主に扱う材料や製品にあわせて、機械装置や工場環境を各々最適化しているためです。私どもの工場では、製品の9割以上がステンレス製のため、少量の鉄製品を作る場合は材料仕入(ロス材料)や段取りを考えるとステンレスで作るのとコスト的に同等か逆に割高になってしまうような場合もあります。
 製造品目と同様に、扱う材料によっても、加工業者ごとに得手不得手がでてきます。またそれは、コストにも反映されることになるでしょう。

 前置きが長くなりましたが、一般の方が、鉄工場の人と相談や打合せをするうえで知っておいてもらいたい機械の名前や加工方法を、鉄とステンレスとの違いをポイントに説明したいと思います。
(思いますが、不精でなかなか筆が進みませんのでごめんなさい。)

切断~刃物(シャー・鋸))・溶断(レーザ・プラズマ)・穴あけ・切欠き
切削~フライス・旋盤・ボール盤(ドリル)・マシニングセンタ
曲げ・成形~プレスブレーキ(ベンダー)・ロール・プレス(金型)
溶接~TIG・MIG・レーザー・プラズマ・ろう付け
接合~ネジ・リベット・接着剤

 シャーリング~上刃と下刃ではさんで、板物を切断する機械。はさみと同じ原理。もちろん刃は、切る材料より硬くなくては切れない。「シャー」とか「シア」とも云う(書く)。「シャー」と市場占有率の「シェア」は、同じ英語だと思いましたが、調べたことがありません。工業英語に興味のある方はご確認ください。
 切断可能な板厚や大きさは、当たり前ですが機械の能力によって異なります。シャーリングの能力は、通常6mm×2500とか表示されますが、これはSS(軟鋼)なら、MAXで板厚6ミリの板を長さ2500ミリまで切ることが出来るということです。つまり、鉄板を基準で能力を表示しており、ステンレスの場合は違ってくるので注意が必要になります。
 板を切断するのに必要な力を計算するとき、「剪断抵抗」(せんだんていこう)という値を使います。剪断抵抗値は、その金属を切るために切断面1mm²あたり何kg(N)の力が要るかという数値で、金属(合金)ごとにちがいます。例えば、鉄(SS)の剪断抵抗が35、SUS304が55ですから、同じ厚さの板を切るとしても鉄に比べてSUS304は1.5倍以上のパワーが要るということになります。ちなみに、アルミは20位なので、鉄やステンレスの半分くらいの力で切断できるということです。
 〈力〉の単位は従来kgf(キログラムフォース)でしたが、現在のISO規格では、N(ニュートン)を使うことになっています。なぜ?とか換算は?と気になる人は、各自調べて下さい。

 

 工業・機械用語をカタカナで書くとき、「―」伸ばす字を書くか書かないか(発音も)混在してますね。モータ、レーザ、シーケンサ、カッタ、ローラ、ブレーカ、コンピュータ・・・私も統一してませんので、ご了承ください。ローラ~♪ 

 レーザ・プラズマ切断機~レーザビームやプラズマアークを使い金属を溶かして切断する機械(方法)。NC制御によって異形(丸・多角形・抜き穴など)のものを正確に切ることができる。シャーリングは基本的に直線にしか切断できないが、レーザやプラズマを使えば専用の金型などなしで対応できるため、少量多種に適。
 切断精度や切断面の仕上がりは、プラズマにくらべレーザのほうが良好。ただし、コストは高くなるので、厚板や切断精度がそれほどシビアでない部品は、プラズマ切断が安価となる。(鉄の場合は酸素ガス溶断)
 ちなみに「ウォータージェット切断」は、高圧水流を噴射してものを切断する機械。ウォータージェットの場合は、対象物の材質を選ばないため、金属以外の、石・樹脂・ガラスなどの切断も可能になる。硬いものを切断する場合は、噴射する水に砥石(の粉)を混ぜ込み切断能力を高めている。

 ワイヤカット~極細の金属線に電気を通して、金属を溶かしながら切断する機械。(放電加工機)。分厚い板でも糸鋸のようにさまざまな形状を精密に切断できるため、金型などを作るためには欠かせない。なお、糸鋸式の刃物で切断する機械は、コンタマシーンと呼ばれる。

 溶かして切断する方式の機械は、鉄より溶けにくいステンレスを切断する場合の能力が、鉄のそれよりも劣ることになります。(熱に強いのがステンレスの特徴なので、当たり前ですが)。鉄なら9mmの板厚を切断可能だけど、ステンレスだと6mmが限度とか、アルミだと**mmとか、銅合金だと何mmとか、切断する材料によってその能力は異なってきます。

 パンチプレス(タレットパンチャー)~板に穴を開ける加工(打抜き)専門のプレス機械。板にねじ穴などをあける場合などに使う。穴が連続するように抜いていけばいろいろな形に穴を開けたり、切り欠いたりすることができる。穴をあける位置や使う金型の交換(タレット)をNC制御で操作できるタレット式パンチプレスを、略して「タレパン」と呼ぶことが多い。(垂れたパンツではない!)。通常は油圧駆動。パンチプレスとレーザが一つの機械になった複合機もある。

 メタルソー・バンドソー~丸棒やパイプ・形鋼など長尺材料(板もの以外の材料)などを主に切断するノコギリ方式の機械。円形の鋸刃を回転させて切る機械を一般にメタルソー・日本語では丸鋸盤と呼ぶ。バンドソーは、リングになった帯状の鋸刃を走らせて切る機械のため、日本語では帯鋸盤。(バンドは帯で、ソーは鋸、マシンは盤の直訳だ!)ノコギリ式は、はさみと違い、鋸刃で材料を削って切るため、当たり前だが、刃幅の分は削り代になり切粉となる。鉄に比べSUSのほうがゆっくり切らなければならないので、コストは高くなる。(刃物の消耗も早い)

 ボール盤~ドリル(キリ)を回転させて切削し、穴をあける機械。鉄鋼加工の基本の加工機。大小さまざまな機種がある。卓上ボール盤・直立ボール盤・ラジアルボール盤・多軸ボール盤など。ドリル(キリ)も、用途に応じて多種多様な製品が市販されている。ステンレスをドリルで穴あけするとき、加工硬化による焼付きに往生するのが、職人としてよい経験になる。ちなみに、「ボール」はストライクではなく、Boringで穴あけ・くり抜きの方。地球を掘るのをボーリングというのと同じ。でも英語では、ドリリングマシーンと云うらしい。(和製英語かどうか知りません)。ピンを倒すスポーツのボーリングはBowlingで、丸い器もBowlで、鞠もBallだが、鉄工場でボールといえば、ボールなのである。

 旋盤(センバン)~材料を回転させて、刃物で削る機械。材料を回転させて削るため、できる形状は、基本的に円形断面(中心軸対称形)の物になる。能力は、削ることが出来る最大径と長さが基本になります。手作業(汎用)機からNC機まで、サイズも方式も、様々な機種があるので、自分で調べてみてください。腕時計の部品のような微細部品を削るものから、鉄道の車輪のような大きなものを削るもの、何メーターもあるような長いシャフト(ロール)を削るもの、目的に応じてさまざまな旋盤があります。
 旋盤は、英語で「レース」。〇〇レースという名前の機械なら、回転して加工する機械のはずです。
 鉄工旋盤は、たぶん明治期の西洋からの輸入品が元になっていると思いますが、日本古来の旋削加工は、「ろくろ」を使って作るお椀や盆などの木工製品の伝統があります。木工旋盤製品は、挽物(ひきもの)と呼ぶことが多く、鉄工分野でも旋盤製品を挽物という場合が多くあります。
 轆轤細工/挽き物/ターニング/スピニングなど、加工の方法によってさまざまな言い方をしますが、どれも物を回転させて加工する方法です。旋盤を削る加工に使うのではなく、金属板の成形(塑性)加工のために使うと、「へらシボリ」「スピニング」加工になります。へらシボリは、金属の板を型に押し当てながら、粘土ろくろのように変形(成形)させていきます。職人技のTV番組などで時々紹介されているので、見たことがある人も多いでしょう。
 「ろくろ」は、陶芸の機械として皆さんご存知でしょうが、漢字で書ける人は少ないでしょうね。(私もパソコンが変換してくれたので助かりました)。
 元旋盤工の小関智弘氏は、ものづくりや職人(町工場)をテーマに小説や論評を書かれています。私の尊敬する職人の一人です。木工旋盤で一番有名なのは、イチローのバットを削るミズノのバット職人さんですね。

 フライス(盤)~材料を水平(XY)方向に動くテーブルの上に固定し、回転する刃物で削る機械。旋盤と反対で、基本的に刃物の位置は固定で、材料のほうが動きながら削るため、直線的な方向(平面的)に削ることができる。(刃物の動きはZ軸)削りたい形状にあわせて、様々な刃物(形状)が市販されている。その刃物をエンドミルと呼ぶことが多い。

 マシニングセンター~ボール盤や旋盤やフライスの機能を1台に集めた機械。機械加工(マシニング)の機能を集中(センター)させた機械の意。NCで数個の刃物(多軸+タレット))を操作できるため、複雑な形状の切削加工品が1台の機械で作ることができる。私は展示会などで見たことはあるが、実際に操作したことはありません。

 ステンレスの切削加工は、鉄系材料に比べ、粘り(硬い)があり、加工硬化(焼き付き)しやすいため、鉄と同じような設定ではうまく削れないようです。刃の角度やスピードなど様々なノウハウが必要になります。そこに加工技術の蓄積(職人技)が求められます。同じ機械があれば誰でも出来るわけではありません。NC化自動化が進んだ最新装置でも、その加工プログラムの基礎には、手作業・職人技のデータが必要です。(NCは、数値制御のこと。わかりやすく言えばデジタル式な情報(コンピューター)で、機械を運転させる方法や装置 numerical control)。

 ステンレスを削る場合の切削速度は、50~80m/min位だったかな?(工具材質や機械によって違う)。切削工具(刃物)の材質は、ハイスとか超硬とかサーメットとかいろいろ。

 ステンレスの削り加工用の材料(快削鋼)には、SUS303、SUS416などがあります。

 

 プレス~(上から)押す力を利用して、取り付けた金型で素材を切ったり、抜いたり、曲げたり、成形したり、伸ばしたり、潰したり・・・などいろいろする機械。つまりセットする金型によって、様々な加工を行う機械なので、金型なしでは何も出来ない。パソコンで言うと、本体とOSがプレス機で、金型が個々のソフトウェアのようなもの。板材の金属部品を作るには、なくてはならない機械。

 

 プレスは、英語だと「スタンプ」「スタンピングマシーン」とのことで、米国でプレスpressは「報道」のほうになるらしいが、私はアメリカのプレス業者さんに聞いたことはないので定かではない。でも日本でスタンプといっても、シャチハタと間違えられる方が多いと思うので、プレスでいいよね。(笑)

 日本語では「鍛圧機械」という場合もありますが、一般には膾炙してないかな。

 作動方式も各種ありますが、大まかに挙げると、
①フライホイールを回転させその回転力をクランクシャフトで上下に動く力に変えるメカ式のプレス。パワープレスとか、クランクプレスとかいろんな言い方をしています。モーター駆動なので、動力プレスと言うこともあり。
②ポンプを使って、油圧(空気圧)でシリンダーを作動させる方式もの。油圧プレスとかエアープレスとか呼ぶ。
③最近ではサーボモーターを利用して高精度な制御ができるサーボプレスなんていうのも出ています。
④人力を使うプレスも、今でも活躍しています。小型のハンドプレスなど、梃子やカム、ネジ(ハンドル)などをつかって人力を増幅する仕組みです。脚の蹴る力(踏み込む力)を使うプレス機は、業界では「ケトバシ」と呼んでいます。
 機械のパワー(押す能力)で言う場合は、「何トンプレス」というのが通常。たとえば20トンとか100トンとか1000トンとか、小さなものから大きなものまで♪ヤンマーディーゼルです。
 あと、機械のフレームの形で表す場合は、その形状によって「C型プレス」とか「門型」とか「四柱」とか呼ぶことになります。ちなみに、シャーリングも、プレスの一種です。
 プレス加工=プレス機械×金型 ということになりますので、ステンレス用のプレス機とか鉄用のプレス機というものはありません。加工する素材(の特性)に応じて金型を工夫しなければならないということです。
 プレス用語で「シボリ」とか「シボッてつくる」などと言う場合は、材料をタオルのようにねじって加工するのではなく、お椀やコップ・皿のような形状に加工することを指します。
 プレスによるシボリ加工でもっとも有名なのは、岡野工業の岡野雅行氏でしょう。技術とともに、話もすばらしい(面白い)。町工場のヒーローかもしれません。TV出演では氏の考え方が十分聞けず残念ですが、中小企業の魅力を発信していただくためにはなくてはならない人だと思います。

 

 鍛造(たんぞう)プレス~前記のプレス加工は、板類を材料として加工することが基本ですが、鍛造は素材形状が板状ではなく、丸棒を切ったようなもの(金属の塊)をたたいて(潰すように)成形する方法です。ヘッダー加工とも呼んでいます。
 一般の人がよく知っている鍛造の代表例は、刀や農具を造る鍛冶(かじ)仕事です。金属は熱すると柔らかくなり成形加工がしやすくなるため、鉄を熱した状態で、ハンマーでたたきながら成形したり、ハガネを張りつけたりするのが鍛冶ですが、手作業のハンマーや金床のかわりに、プレス機械と金型を使うのが、鍛造プレス加工と考えてもらえればいいかと思います。
 鍛冶のように、金属材料を加熱して加工するのが「熱間鍛造」で、素材を常温のまま加工するのが「冷間鍛造」です。鍛造は切削加工のような削りシロの材料ロスがほとんど無いのがメリットです。
 ボルトやビスなどのネジは、大抵この鍛造加工と、転造加工で造られているようです。転造は、素材を回転する金型ではさみつけるようにして成形する方法。(ネジのギザギザのところを加工する)。転造については、私は素人なのでこのくらいでおしまい。

 

 プレスブレーキ(ベンダー)~板材を曲げ加工する機械。「ベンディングマシーン」とか「シートベンダー」とか単に「ブレーキ」と言ったり「ブレーキプレス」と言ったり、メーカーや人によっていろんな言い方をしている。とがった上型とV溝形の下型の間に、曲げたい板をいれて挟みつけることによって、板を曲げる機械。もちろん曲げたい形状によって多種多様な金型(上下型)があります。
 板金加工業界では、このV形溝の金型を「ヤゲン」と呼ぶことも多くあります。(上下型セットで総称の場合もある)。「ヤゲン」は、「薬研」で、昔、粉薬を作るため原料をすり潰す道具が、V形の溝のある台に原料をいれ、円形のスリコギを転がして使うものだったため「ヤゲン」と呼ぶようになったらしい。通常では、プレス金型の上型を「パンチ」「パンチ型」、下型を「ダイ」と呼ぶことが多いようです。
 プレスブレーキの能力は、曲げ加工の可能な長さと加圧力(トン数)であらわすことが多いようです。例えば、「3.2t×3000 200トン」とあれば、厚さ3.2mmの鉄板を、3mの長さまで折り曲げることができる、加圧力200トンの機械という意味です。曲げ長さは、機械の限度以上は困難ですが、曲げ可能な板厚は、材料の曲げ長さや硬さ(材質)によっても、使う金型によっても変わってきますので、目安と考えたほうがよいかもしれません。
 機械メーカーは、アマダ、東洋工機、コマツなどが有名。

 

 ステンレスの板を折り曲げるには、SS材よりも力が要るのはもちろんですが、それよりもスプリングバック(曲げた形状から元に戻ろうとする力・その量)や、曲げ形状の出来具合など、ステンレスと鉄ではかなりの違いがあります。(金属素材ごとに違う)。その辺の違いを判断して加工するには、データやノウハウ、職人技が必要ということになります。

 

 ロールベンダー(三本ロール)~三本のロール(回転する丸棒)の間に板(材料)を通して、ロールで圧力をかけながら丸める機械。円筒状・リング状のものを作る用途の機械。三本ロールベンダーで「6×2000」と書いてあれば、SS材6mm厚の板を長さ2000まで巻くことが出来るという意味。ただし、巻くことの出来る径は、ロールの太さや、動力パワーでも違えば、材料の硬さによっても違ってくる。巻いて作るので、基本的に、「厚く細く長く」なるほど難加工になる。
 機械のサイズも、巨大なタンクを作るための大型のものから、手回しの小さなものまで各種あり。
 ロール数3本が標準的ですが、ロール4本式の機械もある。2本ロールは、ウレタンゴムのロールに押し付けるようにして巻くので、「ウレタンロール」と呼ぶことが多い。
 ロール巻き加工する場合でも、ステンレスは鉄(軟鋼)やアルミ・銅合金に比べて腰が強いため、機械のパワーも余計に必要になる。必然的に、同じ機械での巻くことができるサイズなどの限度も違ってくる。加工限度以上の場合は、板厚を薄くするとか、他の加工方法と組み合わせるなど工夫が必要になる。

 ロールフォーミング ~長尺品を成型する場合、コイル材をいくつものロール(コマ)に通しながら断面形状を成型する方法。(言葉では説明しにくいです。)溶接パイプ、型鋼(フォーミングアングルなど)、金属製屋根壁材などの建材。

 

 ここまでは、材料を切ったり、削ったり、曲げたりする加工(機械)。
 ここからは、接合したり、組立てたりする加工(機械)について書いていこうと思いますが、書き始めてみると結構大変で、少し疲れ気味。
 よく知らないことは書かなきゃいいんだろうけど、実際の加工というのは、理屈や理論をよく知らなくても、経験的に加工が出来てしまう面もあり、もちろん機械の性能がよくなって初心者でもそこそこの加工が出来てしまうと云うこともある。自分でも「何で板が切れるんだ」といわれても、「機械に板を置いてフットスイッチを踏んだら切れる」としか答えようのないことも多い。それを丁寧に説明しようと文章にするのには非常に苦労するし、理論(学科)がわかっても、加工がうまく出来るわけでもなく、実際にやってみてその理屈の意味がわかるといったことも多い。逆に、失敗の積み重ねや、経験的にうまくいく方法を、後から理由付けしたものがノウハウだと言ったほうがよいかもしれない。(畑村先生の失敗学の本を読もう!)。
 機械装置と職人というのは、道具を使うスポーツに近いところがありますね。ゴルフクラブだけでは、スコアーはよくならないだろうし、F1レーシングカーを私が運転してもあきまへん。高級ギターを持っていても、クラプトンのようにはなれません。
 職人の技能=実践経験(練習量)×理論・データ・ノウハウ・機械を使いこなす能力×体力気力
 技術力=機械設備の能力×職人の技能
ああだこうだと、橋本治のような文章になってきたので、気を取り直します。(苦笑)

 

 溶接~金属を溶かして接合する加工方法。溶かすための熱源が電気ならば「電気溶接」、ガスならば「ガス溶接」、摩擦熱なら「摩擦溶接(圧接)」、レーザー光なら「レーザー溶接」、高周波(電磁)なら「高周波溶接」など。これは、熱源による区分け。

 ステンレスの溶接は、電気溶接が主流だと思いますので、よく使われている電気溶接の方法を紹介します。次にあげる溶接方法の名前と概略を覚えておけば、溶接加工の相談のとき話もわかり易くなるかと思います。

*手棒溶接~鉄工場でバリバリバリと火花を散らしながら溶接するのを見たことがある人も多いと思いますが、30cmぐらいの溶接棒をホルダーに挟んで、溶接棒を溶かしながら溶接する方法。アークは、電気が雷のように飛んで、高熱を発生している状態。溶接棒の先が電極となってアークが発生する。もっとも基本的な溶接方法ですが、熟練(高度な技能)が必要です。主に厚板や鉄骨など大物・重量物用途。
 溶接で金属が溶けたところ(冷え固まるまで)に、酸素(空気)が当ると鉄(金属)が酸化してまともな溶接が出来ません。そのため必ず酸素を遮断するためのシールド材が必要になります。手棒溶接の場合は、溶接棒の被服材(ガラスのようなもの・フラックス)が、棒と一緒に溶けながら空気を遮断します。被覆材は冷え固まったあと、はがれて(はがして)溶接部の金属地が出てくることになります。溶接部に時々残っている黒いかさぶたの様なものがその被覆材です。JIS的には「被覆アーク溶接」と呼ぶ。

*MIG・MAG溶接(ミグ・マグ)~溶接棒の代わりに、電極となる細いワイヤーを溶かしながら溶接する。溶接ワイヤー(ボビン巻き)は、送給機で次々とトーチの先からでてくるので、手棒のように棒を頻繁に付け替えることなく、長い距離を溶接できる。スイッチを押すと溶接ワイヤーが送り出されるので、「半自動溶接」と呼ぶことが多い。酸素からの遮蔽(シールド)は、トーチからシールドガスが出てくる仕組み。鉄の溶接の場合、シールドガスに炭酸ガスをメインに使うため「CO2溶接」と呼ぶこともある。ステンレスやアルミの溶接の場合は、シールドにアルゴンガスに炭酸ガスを混ぜたものを使うことが多い。溶接でもっとも多用されている溶接法(機)だと思う。「炭酸ガスアーク溶接」が正式呼称か?
 シールドガスが、アルゴンだと不活性ガスなので、英語で「イナートガス」。CO2だと活性ガスなので、「アクティブガス」。よって、MIGはメタルイナートガスアーク溶接、MAGはメタルアクティブガス溶接。

 CO2(二酸化炭素)は、今や地球温暖化の主要因として(科学的な正否はひとまずおいて)各国の削減対象となっていますが、溶接用シールドガスに使われているCO2は一体どのくらいの消費量なのでしょうか。溶接業界か行政で統計調査をしているのか、興味のある人は調べてみてください。(ついでに炭酸飲料のCO2の量も)。

*TIG溶接(ティグ溶接)~トーチの針状の電極からアークを出して溶接する。手棒や半自動溶接のように電極自体を溶かしながらの溶接ではないため、溶接部に加える溶加棒(TIG棒)が必要になる。(溶加棒無しでも溶接可能)。電極には、高温に強いトリウムやセリウム入りのタングステン棒を使うので、その電極棒を略して「トリタン」「セリタン」と呼ぶ。(牛タン好きです!)。シールドガスは、アルゴンガスを使うため「アルゴン溶接」、不活性ガスの意味の「イナート溶接」と呼ぶことも多い。タングステン・イナートガスの頭文字でTIGとなる。「タングステン・イナートガス・アーク溶接」は長々しいので、通常、「ティグ」「チグ」と呼ぶ。
 溶接には、技能習熟が必要だが、薄板や精密品の溶接に適していて仕上がりがきれいなため、当社では一番メインの溶接方法になっている。
 鉄やステンレスを溶接する場合は直流(DC)で、アルミを溶接する場合は交流(AC)で行う。それは何故かということを説明すると長くなるのでやめます。

*プラズマ溶接~プラズマアークによる溶接法。TIGのアークに比べて、アークを細く集中させることができるため、熱影響部を小さく、かつ深い溶け込みを得ることが出来る。(TIGを発展高性能化したようなもの)。

 溶接時の酸化防止シールドガスはTIG溶接の場合「アルゴン」を使うのですが、これが結構高価なのです。仕入先の溶材屋さん曰く、「なぜなら地球上にあんまり沢山ないから」などと冗談話をしながら、アルゴンを使わない溶接機を開発してくれと言うと、溶材屋(ガス屋)がやっていけなくなるので、絶対いやだといってました。(笑)
 それじゃあ「引火しないガスならシールドできるんだから、空気中に大量にある窒素じゃだめなのか」と聞くと、溶材営業マン曰く「窒素だと溶けた金属に悪影響を及ぼすからじゃないの」とのことでした。ただし真偽のほどは確かめておりません。
 ステンレスの窒化処理というのがあるくらいですから、窒素がステンレスに影響を与えることは間違いないのでしょうけど、レーザー切断のアシストガスに窒素を使っているのだし、その理由を一度よく調べてみたいと思っています。(溶接研究の教授・溶接機メーカーさん教えてください!)

 

 溶接棒(溶接ワイヤー)~溶接するところに溶かしながら加えていく材料で、溶加棒と言う場合もある。当社では、TIG溶接用の棒は、そのまま「ティグ棒」と呼んでいる。溶接する母材同士をつなぐ役目で、材料間のすき間(開先)を埋めたり、肉盛をして溶接箇所の強度や信頼性を高める重要な材料。溶接する鋼種(材質)と同等なものを使うのが基本になるが、溶接の品質のために、溶接棒は通常材料とは微妙に違う成分比率(添加物)になっている。(溶接棒は溶接棒でJIS規格があります。)
 例としては、ステンレスでSUS304に使う溶接棒の鋼種は、SUS304ではなくSUS308(L)が基本。SUS316の場合はSUS316(L)。鉄系の材料とステンレスを溶接する(異材)の場合はSUS309など、鋼種によって適切なものを選ばないと溶接不良などの原因になる。ステンレスの溶接棒って高価なんですよー!最後まで使い切ってね!
 溶接棒の記号を今「SUS」と書きましたが、JIS規格のステンレス溶接棒の記号は、実際には「SUS」ではなく「Y」や「D」がつきます。TIG棒・MIGワイヤーの場合は「Y308L」とか「Y316」など。被覆アーク棒の場合は「D308-16」とか、フラックス入りのワイヤーだと「YF316L」だとか、その他もろもろです。「Y」は「溶接」の頭文字の「Y」。「D」は知りません、誰か調べてください。
 専門の人でなければ、溶接棒の記号まで覚えている人はそうはいないと思いますので、YやDの記号が付いたら溶接棒の鋼種だということだけ知っておけばいいのではと思います。後は「SUS304に使う溶接棒」とか言ったほうが、分かりやすいのでは。

 溶接で熱影響を受けた部分は金属組織が劣化(変質)するため、腐食や割れ(脆性)が発生しやすいところです。溶接周辺の熱影響部をHAZ(はず/ヒート・アフェクト・ゾーン)といいます。
 特にSUS430系の場合は、確か470°前後の温度で長く置かれると、脆化する(もろくなる)性質があるはずなので、溶接後の温度管理に注意が必要になります。(一般の人は知らなくても当たり前です。)

 

*抵抗溶接~アーク溶接とは違い、高電流による抵抗発熱(ジュール熱)によって金属を溶着させる方法。材料(板など)を重ね合わせて溶接する場合に使う。一般的に突合せ溶接には向かないが、「バット溶接」といって、丸棒やねじを溶接する機械(専用機)もある。溶接したい板(など)を重ねて、通常丸棒状の電極で上下からはさみつけて加圧し、瞬間的に高電流を流すと、電極に挟まれた部分が発熱して溶着する。
 溶着部が点になるので「スポット溶接」と呼ぶことが多い。円形の電極を回転させながら連続的に溶接する方法は「シーム溶接」と呼ぶ。溶接の話をするとき、「スポット」とか「シーム」「バット」とかでてきたら、抵抗溶接の(種類の)ことですので覚えておいてください。
 スポット溶接機には、その電気を流す方法の違いで、交流・直流・インバーター・コンデンサー方式などがあります。もちろんそれぞれに特徴があります。(その特徴を話すと長くなるのでヤメ)。あとは、電流量(パワー)の違いで、小型~大型まで様々です。

 

*レーザー溶接~溶接の熱源にレーザー光を使用したもの。レーザー切断機と原理は同じ。レーザーは、電気的なアークではないため、光線が広がらず一点に熱量を集中させることができ、母材に与える熱影響が小さく、微細な(精密な)溶接が可能になる。レーザーを応用した工作機械は次々と進化している。

​ レーザーの種類も多種あり、それぞれ特徴がある。近年は、ファイバーレーザーが多い。

 ステンレスは、溶接熱による歪みが非常に大きいため、歪みが少なく(熱影響が少なく)溶接できるレーザ溶接は加工上の有効な手段となっている。​(レーザーの種類については、自分で調べてください。)

 

*ガス溶接~酸素とアセチレンガスによるバーナーの火炎熱で溶接(溶断)する方法。酸素が少ないと鉄は燃えないのだろうか?
 

*摩擦圧接・摩擦攪拌接合(FSW)~摩擦熱による接合装置も進歩しています。(紹介のみです。)


*ハンダ~ハンダやロウ付けは、材料母材を溶かさないので溶接とは違いますが、古来より使われている金属を接合する重要な技術です。もちろん現在もさまざまなところで使われています。ロウ付けは、アーク溶接に向かない銅製品の接合などに使われています。(ブレージング)。
 なお、ハンダは、基本的には鉛・スズ合金ですが、その毒性によって鉛の使用を禁止する法令等により、最近では無鉛のハンダが多く採用されているようです。(RoHs指令では、消費者と環境の保護のため、鉛やカドミウムなど有毒性金属の使用を禁止している)

 

*熱を使わない接合方法
 ネジ~JIS(ISO)規格。他多種あり。
 リベット・ブラインドリベットもよく使われます。
溶接の出来ないものや、溶接歪みを嫌う製品、組立て式の製品などには、ネジが多用されています。
ネジやリベットなどの締結部品のことを総称して、「ファスナー」と呼ぶこともあります。

​ ステンレス製のネジは多くの種類のものが市販されています。

​ カシメ・圧入については割愛。

 接着剤についても、割愛。

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8.あとがき

 

 最先端の機械(マシニングやレーザなど)は、1台が何千万円もするのが当たり前です。大会社でなければ簡単に設備投資はできません。毎日フル稼働させるくらいの仕事量を確保しなければ、なかなか採算は取れないでしょう。小規模企業の弊社では、それらの機械(加工)が必要な場合は専門の業者さんへ依頼することになります。その代わり、他では出来ない加工技術(機械)のためにお金を使うようにしています。もちろん最先端の機械には憧れがありますが、それだけで飯が食っていける時代でもないと思います。独自の商品や独自の加工技術を造りだすために、いままで出来なかったことを、(最先端の)機械が応援し実現してくれるのであって、あくまでも機械は加工屋の目的ではなく手段です。
 樹研工業の松浦氏は、樹脂成形で「百万分の1」の歯車を造ったことで有名ですが、そのための謝出成形機と金型をつくるために、新鋭の高価なマザーマシンを導入しているということです。でも樹研工業の本当にすばらしいのは、機械を使いこなす技能やノウハウ、品質管理システム、社員教育などにあると思います。そのような尊敬する企業には足元にも及びませんが、ちっぽけな弊社でも、独自の製品や技術(目標)を、手持ちの機械工夫やノウハウの組み合わせで実現できることもあると思い、日々無い知恵をめぐらせています。
 独自の加工技術や独自の商品は、最新・最先端の機械とイコールではないと、心で叫びつつ(笑)、日々勘考(この辺の方言?で、手元にあるもので、いろいろ考えて工夫してつくること)しております。
「強烈な努力」(藤沢秀行)が必要だと思いながら。

 ステンレスについてここまで書いてきたことは、私の経験や、仕事上必要で読んだ本や資料(の記憶)、取引先の方々の話など、さまざまなことが混じっています。自分で確認せずに、しらぬまに受け売り文章をかいているところもあるかと思います。ご容赦のほどお願い申し上げます。

 だんだん世間話が多くなってきましたので、この辺でお開きにしたいと思います。
気づいたときには加筆訂正させていただきます。無駄話の加筆だけかも知れませんので、ご期待は半分で。
お付き合い有難うございました。

 

9.参考文献   参考までに、ステンレス関係の書籍の紹介です

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